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ラボラトリーズ

FIRST合原最先端数理モデルプロジェクトの紹介

奥 牧人



1.はじめに

 最先端研究開発支援プログラム「複雑系数理モデル学の基礎理論構築とその分野横断的科学技術応用」プロジェクト(中心研究者:合原一幸教授、通称:FIRST合原最先端数理モデルプロジェクト)がこの3月に終了を迎える。本稿では、プロジェクトの概要を紹介するとともに、本プロジェクトが目指したもの、プロジェクト期間内で実現された成果、そして、プロジェクトが築いた最先端数理モデル学の今後の展望について述べる。

2.プロジェクトの概要

 まず、FIRST合原最先端数理モデルプロジェクト(以降、合原PJと書く)の概要を述べる。合原PJは、最先端研究開発支援プログラムとして採択された30のプロジェクトのうち、数学を主テーマに掲げた唯一のものである。「複雑系」の合原PJにおける定義は、実世界の問題を数学の問題として定式化(数理モデル化)し、その知見を実世界の問題解決に役立てるという循環が難しい系、である。そのような系に対する最新の取り組み全般を指して「複雑系数理モデル学」または「最先端数理モデル学」と合原PJでは呼んでいる。具体的な研究内容については後述するが、基礎から応用まで幅広い研究が行われている。

 合原PJには2013年12月時点で国内外の32の大学・研究機関および4社の企業から計約80名の研究者が研究分担者として参画している。また、全期間を通じて約50名の博士研究員がプロジェクト専属のポスドクとして関わってきた。さらに、多くのスタッフがプロジェクトの活動を支えている。また、合原PJの支援機関として独立行政法人科学技術振興機構に協力頂いている。

 合原PJの中心拠点は、東京大学生産技術研究所内に設置されている「最先端数理モデル連携研究センター」である。同センターは、多くのプロジェクト専属のメンバーの活動拠点として、また、プロジェクト関係者が各種業務を行う場として利用されている。
 合原PJは、以下の3つのサブテーマグループを有している。

  1. 「複雑系数理モデル学の基礎研究」
  2. 「複雑系数理モデル学の工学応用研究」
  3. 「基礎研究と応用研究の融合による複雑系数理モデル学の体系化」

各グループ内はより細かい研究テーマ別に複数の班に分かれており、プロジェクトに所属する研究者は、原則いずれかのグループのいずれかの班のメンバーとなっている。

 プロジェクト期間は2010年3月から2014年3月までの4年と1か月である。当初は5年間を予定していたが、政権交代および事業仕分けの影響でこのようになった。また、合原PJは予算面の観点からも極めて大型のプロジェクトであった。そのため、社会から寄せられた多大な期待に見合う成果を上げることが強く求められ、フォローアップ等によりプロジェクトの進捗状況が繰り返し厳しくチェックされてきた。

3.プロジェクトが目指したもの

 合原PJの基本的な研究姿勢について、研究紹介冊子(合原PJのウェブサイトよりpdf版をご覧頂けます)には以下のように記載されている。

世の中の様々な現象に学びそれを社会に活かす数学である「数理工学」の観点から、様々な複雑な科学技術の問題を解くための基礎理論研究とその応用研究に取り組んでいます。

ここで「数理工学」という用語は、単に応用寄りの数学という意味ではなく、基礎と応用の両方を重視した数理的学問・研究のあり方という意味で用いられている。

 具体的に、基礎理論研究においては、従来独立に発展を遂げてきた数学分野の「力学系理論」と工学分野の「制御理論」を融合し、新たな理論を構築することを主な目標の一つに掲げ研究を推進してきた。一方、応用研究においては、数理的な手法を用いることで、現代社会が抱える数々の深刻な問題の解決法(前立腺癌間欠療法に関する個別化医療、新型感染症の伝播予測、余震の早期予測、動的ネットワークバイオマーカーによる病気の予兆検出など)を探るとともに、産業上有望な数々の新技術開発(β変換によるAD/DA変換器、超低消費電力の神経模倣振動子回路、環境ノイズを利用したセンサー同期法など)に取り組んできた。

4.プロジェクトの成果

 続いて、合原PJの成果について述べる。研究発表の統計データは、筆者が数えたところによると、学術雑誌論文が約300件、学術会議発表が約1000件、招待講演が約30件、書籍が約10件(章単位の執筆を含む)である。また、プロジェクト関連の特許出願は約20件である。

 研究集会も多数開催された。合宿勉強会が9回、テーマワークショップ(特定の研究テーマに焦点を当てたワークショップ)が24回、CTDSセミナー(制御理論と力学系理論の融合を目的としたセミナー、CTDSはControl Theory and Dynamical Systemsの略)が12回、公開セミナーが約100回、合原PJ主催の国際シンポジウムInternational Symposium on Innovative Mathematical Modelling (ISIMM)が3回開催された。また、合原PJと合原研究室の合同によるラボセミナーが週2回程度の頻度で定期的に行われた。この他、様々な研究組織との合同研究集会、有志メンバーによる研究会なども多数開催された。

 研究内容の周知活動も積極的に行われた。毎年5月頃に行われる東京大学駒場リサーチキャンパス公開では、最先端数理モデル連携研究センターのメンバーが中心となり、ポスター展示や実演を用いて合原PJの取り組みについて紹介した。また、2012年8月には、合原PJの研究内容等を分かりやすくまとめた研究紹介冊子を発行した。同冊子は2014年3月に内容を改め再度発行される予定である。さらに、合原PJの研究内容を紹介する日本科学未来館の常設展示が2014年2月19日より公開されている(メディアラボ第13期展示「1たす1が2じゃない世界―数理モデルのすすめ」、公開期間:2014年2月19日より9月1日まで)。加えて、合原PJの研究成果を体系立てて紹介するウェブサイト、Nonliniaがまもなく公開される予定である。この他にも、数多くの講演、出展、出演、紹介記事等を通じて研究のアウトリーチ活動が行われてきた。

5.最先端数理モデル学の今後の展望

 最後に、合原PJが築いた最先端数理モデル学の今後の展望について述べる。合原PJでは、基礎と応用を繋ぎ、力学系理論と制御理論を融合し、実世界の問題と数学の問題を循環させるという目的を達成するために、異分野の研究者同士を引き合わせ、互いの研究が結び付くよう様々な働きかけがなされた。こうして生まれた研究者間・研究分野間の数々の繋がりは、プロジェクト終了後も新たな研究成果を生み出し続け、最先端数理モデル学を発展させる基盤となり得るだろう。そのようなプロジェクト後の研究活動を支えるために、上述のウェブサイトNonliniaは、合原PJ関係者に限らず幅広い分野の研究者が連携形成の場として継続的に利用できるよう設計されている。最先端数理モデル学のさらなる発展に向け、筆者も可能な限り貢献していきたいと考えている。



おく まきと
東京大学 生産技術研究所
[Article: D1401A]
(Published Date: 2014/03/18)