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研究部会だより

折紙工学研究部会だより

萩原 一郎



折紙工学研究部会は,主査;萩原一郎(明治大学),幹事;安達悠子,石田祥子(明治大学),杉山文子(京都大学),三谷純(筑波大学),舘知宏,斎藤一哉(東京大学)など10数名の委員で構成され,秋の年会,春の連合講演会でオーガナイズセッション(OS)を設けているほか,明治大学先端数理科学インスティテュート(MIMS)において,毎年1乃至2回「折紙工学」関連の研究集会を開催している.MIMSは,京都大学数理解析研究所,九州大学マス・フォア・インダストリ研究所に続き,全国3校目の,数学・数理科学分野の共同利用共同研究拠点に選出されている.2016年は,11月9日~12日の間,MIMS で国際会議ICMMA(International Conference on Mathematical Modeling and Applications)2016 “Origami Based Modeling and Analysis”が開催された.

さて,2002年の11月に野島武敏氏(当時京都大学)が折紙工学を提唱した[1].当時,円筒,円錐,円形膜やパラボラ面や球などの折り畳みモデル,構造強化を目指した一枚の紙からなる凹凸面など任意形状断面の設計可能な3次元ハニカムコアなどを次々と発表する,同氏の研究に注目していたこともあり,私は直ぐに,本学会に折紙工学研究部会を設けた.折紙工学推進は,計算科学シミュレーションが伴わない限り難しく,私がそれを引き受けるべきと考えたためである.ほぼ同時期に,日本機械学会にも折紙工学の産官学共同プロジェクトを興した[2].こうして2003年から,途切れることなく両学会で「折紙工学」のオーガナイズセッション(OS)を設けている.これまでにOS等で発表された成果の一部は,会刊行の「シリーズ応用数理3巻折紙の数理とその応用」にも収められている[3].この日本発の折紙工学は諸外国にも伝播し,例えば,2012年には米国科学財団(NSF)新興フロンティア・学際活動局(Office of Emerging Frontiers and Multidisciplinary Activities:EFMA)の助成対象15課題のうち8課題が折紙プロジェクト(Origami Design for Integration of Self- assembling Systems for Engineering Innovation (ODISSEI))として選出された[4]ことにより,米国において一気に折り紙の応用に関する研究が盛んになった感がある.このことは,2014年8月に東京で開催された「第6回折紙科学・数学・教育国際学会」に世界30カ国から300人近くが参加したなかでの登録者数が日本と米国がほぼ拮抗していたことでも理解できる.さらに2013年からは,米国の機械学会ASMEのDesign 部門講演会に,Symposium on Origami-Based Engineering Design が設けられている.毎年25件ほどの講演の中で,日本からのものは2013年5件,2014年2件,2015年10件,2016年6件である.日本からの発表者の90%以上は,日本応用数理学会のOS での発表経験者である.ASMEの中でもDesign部門は大きく折紙のセッションに論文賞は容易には回ってこないが,2013年と2016年には折紙のセッションからも選ばれ,2013年は斎藤一哉氏,2016年は舘知宏氏がそれぞれ米国の大学研究者との共著で受賞している.

その一方で折り紙の産業化は容易ではない.例えば,自動車の衝突エネルギー吸収材は,トポロジー的には,一枚の紙を丸めるようにして左右両端をホッチキスなどで留めたようなものである.一枚の紙から3次元構造を作るのを折り紙と定義すれば,折り紙としては最も単純なものである.その分,非常に安価で製造できるわけだが,折り紙特有の展開収縮機能はない.このことは,途中で折れ曲がらずに理想的に潰れても自らの嵩張りが邪魔し自長の7割しか潰れない原因にもなっている.展開収縮構造は,ミウラ折りのような剛体折り,あるいは螺旋型折紙構造のような一段と工夫された構造である.例えば,野島氏により初めて示された反転螺旋型折紙構造は展開収縮機能を有すお陰で自長の9割まで折れ曲がらずに潰れ,エネルギー吸収量も現在の自動車のエネルギー吸収材の1.7倍もあることが筆者らの研究によって示されている[5].しかし,工夫を凝らした分,複雑な構造となり製造費も高く,実際上の利用は困難となる.ミウラ折りや展開収縮機能を有すソーラーセイルなどの円形膜折りは,今なお大量生産法は得られておらず一品生産法に拠らざるを得ない.これが折り紙の産業化を困難にしている.

さて,計測技術の著しい進展により,現在の科学・技術の興味は,ミクロとマクロの両極端にまで広がっている.これらには,適切な強度・剛性が容易に得られないという共通の課題があるが,ミクロ方面では血管内の掃除をする超ミクロ折紙ロボット,マクロ方面では折り紙の展開収縮機能を使った巨大なソーラーセイルなどいずれも折紙構造である程度の解を与えている.それでも現在のソーラーセイルの大きさは目標の100分の一以下であり,この原因の一つは巨大構造の剛性の賦与が難しいことである.この解決にはブレークスルーが必要とされている.例えば,長方形の一枚の紙を想像しよう.この紙に折りを設けるだけで,ある方向の力に対する剛性が向上するのがお分かりになるだろう.車のフロアも真っ平らでは,剛性が弱く,適切に折り曲げを設けることによって剛性を向上させている.このように,折り曲げで作られる設計は無意識のうちに折り紙の考え方が使われているとも云える.これらをシステマティックに数理的な観点から検討する折紙工学こそ,上述のブレークスルーを与えるものと考えている.

さて折紙工学推進において,製造法に新機軸を打ち出すことが最大の課題といえる.これに相当するものとして折紙工法のための折紙式プリンター[6]がある.オバマ大統領も革命を起こすとする積層型3次元プリンター(Lay3D)は,大規模なものには適用が困難,製造に時間がかかる,高価で中小企業の方には手が出ないケースが多い等の問題がある.そこで筆者らのグループでは,リバースエンジニアリングの技術[7]を援用し,STL(STereo Lithography)データを入力とし,それを(1)セグメント化し[8],(2)各セグメントを2次元展開[9]し,(3)最後に人間の手であるいは折紙ロボットで組み立て結合する[10]システムを考案し,それを折紙式3次元プリンター(Ori3D)と命名した.「人間の手で組み立てられる」ことで,「百聞は一見に如かず」という諺に対し,「百見は一作に如かず[11]」の意義もOri3Dは有す.やはり,実際に自分でさわって作成してみることによって構造物の性質をより詳細に把握できる.Lay3Dは,一体成型のため得られる構造の大きさは装置によって制限がある.また,造形されたものの処分にコストがかかり,まさに人工物であふれてしまう状況になりかねない.これらのLay3Dの欠点をOri3Dは解消している.なお,下図1は,Ori3Dでどのような産業化が期待できるのかを,図2はOri3DとLay3Dを組み合わせたシステムである.Ori3Dの実用化に向けた完成には,折紙ロボットの実用化が必須となる[12].筆者の研究室の博士課程学生の「世界初;糊付けまで可能な折紙ロボット」は,上述のASME Design 部門の大学院学生のロボットコンテストで3等賞を得ている.今後が期待される.折紙工学研究部会では,薄紙を対象とする従来の折り紙に加えて,厚紙,段ボール,アルミや鉄に至るまでの材料を扱い,その製造法,製造を実現するロボットまで,研究・議論の対象が非常に広範囲になり,正に一つの工学部門に発展してゆく様相を呈している[12].なお,折紙工学は周囲の期待も大きく,2016年度文部科学大臣表彰・若手科学者賞の表彰を,石田祥子氏が「数理折紙を用いた展開収縮構造の設計と工学応用に関する研究」で,舘知宏氏が「計算折紙に基づく空間構造デザインシステム」で受賞している.

このように,折り紙は新しい製造法である3次元プリンターにも大きな影響を与えつつあるように,その領域は拡大している.しかし,日本人の感性で新しい美しい新しい折り紙とそれに絡んだ,機能創出,製造法がやはり折紙工学のメインサブジェクトであることを肝に銘じて進めてゆきたいと考えている.

図1 折り紙から誕生した折紙式プリンターの適用例

図2 現存の積層型プリンターと折紙式プリンター融合の新しいプリンターの概念図

参考文献

[1] 野島武敏,数理折紙による構造モデル,京都大国際融合創造センター(IIC)フェアー,2002年11.26.

[2]日本機械学会イノベーションセンター研究協力事業委員会 RC235「計算力学援用による折紙工学の推進とその応用に関する調査研究分科会成果報告書(主査:萩原一郎),2010.12/20.

[3]野島武敏,萩原一郎編,折紙の数理とその応用,共立出版(2012.9)

[4] http://www.nsf.gov/eng/efri /fy12awards_ ODISSEI.jsp

[5]Xilu ZHAO, Yabo HU and Ichiro HAGIWARA, Shape Optimization to Improve Energy Absorption Ability of Cylindrical Thin-Walled Origami Structure ,Journal of Computational Science and Technology,pp. 148-162, Release Date: November 30, 2011.

[6]萩原一郎,積層型3次元プリンターを凌駕する折紙式3次元プリンターを目指して,応用数理招待論,Vol.26,No.1(2016-3),pp.22-28.

[7] 篠田淳一,萩原一郎,製品開発事例,シミュレーション第28巻第4号(2009-12),pp.160-162.

[8] Savchenko, M., Diago, L., L.,Shinoda, J. and Hagiwara,I., Mesh segmentation using the Platonic solids, 日本シミュレーション学会論文誌,13-1(2011), 1-10.

[9] )Bo Yu, Maria Savchenko, Junichi Shinoda, Luis Diago, Ichiro Hagiwara, V. Savchenko, Producing Physical Copies of the Digital Models via Generating 2D Patterns for “Origami 3D Printer” system,pp.58-77, Released: August 08, 2016.

[10] Romero, J. A., Diago, L.A., Nara ,C., Shinoda ,J., and Hagiwara,I.,Norigami folding machines for complex 3D shapes, Proceeding of the ASME 2016 IDETC/CIE 2016, 掲載決定.

[11] 北岡裕子,やまとごころでサイエンス,呼吸器画像で4次元を理解する(連載第2回),断層映像研究会雑誌,41-1(2014),15-19.

[12]萩原一郎,「折紙工学の深化と新しい潮流」にあたって,応用数理招待論文,Vol.26,No.1(2016-3),pp.5-8.

 



はぎわら いちろう
明治大学研究・知財戦略機構・先端数理科学インスティテュート
[Article: I1506D]
(Published Date: 2016/12/18)