JSIAM Online Magazine

学術会合報告

「産業における応用数理」研究会

相島 健助



2012年12月4日,筑波大学東京キャンパス文京校舎にて,「産業における応用数理」研究会が開催された.本研究会では,企業や研究機関の方々を中心に8件の講演があった.将来的には「産業における応用数理」研究部会設立を目指しており,その準備段階として,研究部会のあり方を探ることが本研究会の趣旨である.

 

プログラムはhttp://www.cs.tsukuba.ac.jp/~sakurai/ag_acmi/の通りで,本稿では講演名のみ列挙すると『建設業における数値計算法の応用』『Designing multilayer films for display applications』『高速鉄道における車輪・レール間の動的接触解析』『「京」における数値計算ソフトウェア整備について』『解析業務効率化への取り組み』『分散オンライン機械学習基盤 Jubatusの研究開発』『高速炉の炉心群振動解析のための接触アルゴリズムの高速化』『自動車用オートマチックトランスミッションの音圧と質量を同時に低減する手法』である.見てわかる通り,数値シミュレーションについての講演,数値計算ソフトについての講演など,数値計算アルゴリズムがアプリケーションとしてどのように用いられているか,あるいは数値計算ソフトとしてどういった形態で提供されているかについて,現状と今後どうあるべきかについて議論した.

 

数理の応用というと,実は様々な分野があるが,本研究会では,特に数値計算に関する話に時間をとって下さる方が多かった.当然ながら,数値計算に帰着するまでにはモデリングや最適化などを行い,数理の応用をテーマにする会議では通常その部分の話が中心になることが多いと思うので,数値計算に関する説明が多かった点は本研究会の特徴と言えるかもしれない.行列に関する数値計算(線型方程式,固有値問題)の用いられ方についても割と丁寧な説明があり,線形計算の研究に携わる自分にとっては興味深くありがたかった.

 

数値計算を必要とする際,目的として,複雑な物理現象を厳密にシミュレーションしたいのか,あるいはウェブ上の巨大なデータからデータマイニングしてざっくりとした傾向を見たいのか,様々なケースがある.数理的な観点から見ると,モデルを簡略化せず計算機のパワーに任せて巨大な計算も厭わずに厳密な解を得たい場合,つまり精度を重視する場合もあれば,一方,巨大なデータに対してオンラインでとにかく高速に計算を行いたい場合,つまり速度を重視する場合もあるということで,ある意味相反する要求が見えるのも面白いことかもしれない.そして応用上の目的に合わせてソフトウェアはどう整備されるべきかも重要な論点である.本研究会のように,こういった様々な動機や要求について数理的な側面でもってお互いに議論できるのは,様々な分野の研究を俯瞰する応用数理学会ならではと思う.こういう会合はお互いのバックグラウンドをよく知らないままでは難しく,今回,講演者の方々は,発表の仕方を考えるのに苦労したであろうと察するが,講演はとても分かりやすいものであったと思う.非常に感謝している.一見共通点の無さそうな様々な産業界における研究を,数理的な側面から互いに紹介しあうのは新鮮で,参加していた学生たちの興味をひいたことだろうし,意欲のある若い研究者にとっては,自身の数理的な感性を応用の研究に広げていこうというモチベーションを得て,いい刺激になったのではなかろうか.

 

産業における数理という研究部会では,部会のくくりとして漠然としていてイメージするのが困難な面があり,とりまとめも議論すべき点も難しいと感じるが,その中から数理的な視点で共通する研究テーマを見出だし,お互いの研究の長所を共有できる場を提供していけると面白いと思う.研究会当日,今後の具体的な予定には言及されなかったが,次回の研究会,非常に楽しみである.

 



あいしま けんすけ
東京大学
[Article: G1212A]
(Published Date: 2013/05/20)