JSIAM Online Magazine

研究部会だより

「数理ファイナンス」研究部会

石村 直之



2008年以降の世界的な金融危機では,危機を増幅した一因として,新しい金融技術,いわゆる金融工学を問題視する論調があった。実際にも,本来ならば通常の投資家にとっては見向きもされないような投資対象が,金融工学の技術によってそのリスクが分割され編集され,見かけ上はあたかも受け入れ可能なように装われた部分があったのは事実である。現在の数理ファイナンス研究部会は,金融工学の基礎的数理的な側面を中心に活動しており,このような世間一般の非難とは距離を置いているものの,他分野の方から見れば同じ穴のむじなであろう。というので,遠慮もあって部会便りからご無沙汰していたが,金融状況が小康状態の今,久々にご報告させて頂く。

いささか卑下するような冒頭の文章で始めたものの,ご存知の方も多いとは思うが,数理ファイナンス研究部会の歴史は古い。1992年7月の理事会において創設が承認され,その後活動を続けているため既に20年を越えている。当学会研究部会の中でも古い方ではないかと思う。創設当初の主査や幹事の面々は,現在でも第一線でご活躍中の方を含んでおり,個々にお名前を挙げることは控えるが,数理的ファイナンス研究では日本の中心人物の方々であった,あるいは方々である。特に,不幸にも若くして研究者人生を絶たれ,その後の日本のファイナンス研究にとっての損失が計り知れない,故白川浩氏の献身的な尽力は特筆ものであったとお聞きしている。創設当初から10年ほどの活動は極めて活発であり,数理ファイナンスという研究分野を日本にも定着させよう,という創設者の方々の意欲と努力をひしひしと感じるものである。ただ,日本のいわゆるバブル経済が弾けた時期とも重なっており,徐々にではあるが,落ち着いた活動へと移行していったようである。ちょうど金融機関一般においても,数理ファイナンスや金融工学を履修した学生や院生の採用を,何が何でも集めようという状況ではなくなり,通常の採用状態にしていった時期とも重なる。

この報告を書いている小生は,2006年度より主査の任にある。個人的なことで恐縮であるが,数理ファイナンスの分野に取り組み始めたのが1996年以降と遅いため,少なくとも数理ファイナンスや金融工学が,ひとつの研究分野として確立され認知された後の参入者である。いうなれば,超人的な努力をしなくとも巡航速度での活動が十分に可能となってからの主査である。基本的には,年会でのオーガナイズド・セッション(OS)と,年2回の研究部会連合発表会での活動が中心である。状況が許せば,理論応用力学連合にOSを組織することとしている。そのための主査の能力は甚だ心もとなく,ほんの一部のお名前のみ挙げさせていただくが,赤堀次郎立命館大学教授,小俣正朗金沢大学教授,岸本一男筑波大学教授,成田清正神奈川大学教授,宮崎浩一電気通信大学教授,山中卓三菱UFJトラスト投資工学研究所研究員等の協力を,というより実際の運営参加を得て活動を続けている。応用数理学会の研究部会という面が強くなったからか,他にも数理ファイナンスや金融工学が所属可能な学会が増えたためか,数理的な面が強調される発表が多くなっているようである。その分,基礎的な内容を丁寧に研究することで,実務を意識しないというわけでは決してないが,金融工学の土台の部分の強化に貢献している研究部会であると考えている。今後しばらくは,このような縁の下の地道な活動を続けていく所存である。

なお,この一文を著すに当たり,岸本一男教授より様々な情報提供をいただきました。ここに記して感謝します。



いしむら なおゆき
一橋大学 大学院経済学研究科
[Article: I1309A]
(Published Date: 2013/12/17)