JSIAM Online Magazine


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学術会合報告

The 9th International Conference on Optimization: Techniques and Applications 参加報告

田中 未来



2013 年 12 月 12 日から 16 日までの 5 日間 (初日は welcome reception, 最終日は conference tour のみなので, 実質的には 3 日間) にわたって台北市で開催された The 9th International Conference on Optimization: Techniques and Algorithms (ICOTA 9) という国際会議に参加した. ICOTA は 3 年に 1 回の頻度で開催されるアジア圏を中心とした最適化の国際会議である. 今回は 9 回目の開催で, 30 か国以上からの参加者によっておよそ 200 件の講演が行われた. これらの講演が扱っていた内容は, 離散最適化や連続最適化といった最適化の核となる分野だけでなく, ゲーム理論, 機械学習, 制御理論といった最適化周辺の分野にまでわたり, それぞれの分野においても理論から実装・応用までと様々であった. プログラムや写真は ICOTA 9 のウェブページで見ることができる. 以下では私の印象に残った講演をいくつか紹介しよう.

2 日目の plenary speech では南山大学の福嶋雅夫先生による均衡制約つき均衡問題に関する発表が行われた. 均衡制約つき均衡問題は先導者と追随者が複数存在する非協力ゲームから現れる問題である. このようなゲームでは先導者の戦略に応じて追随者の最適戦略が変化するため, 先導者は追随者の戦略の最適性を考慮して意思決定を行う. 追随者の戦略の最適性は均衡制約として書くことができるため, 先導者の均衡問題には均衡制約が課される. 一般にプレイヤーが複数人いるゲームから現れる均衡制約つき均衡問題は非常に難しい問題だが, この講演では特殊なケースでは実際に均衡を求めることができるということが紹介された.

最も印象に残った講演は 3 日目の plenary speech で, National University of Singapore の Kim-Chuan Toh 先生による大規模な行列最適化問題に対するアルゴリズムに関する講演である. 行列最適化問題とは, 半正定値最適化問題をはじめとする行列を変数とする最適化問題のことである. 大規模な行列最適化問題では, 大規模な線形方程式系の解や固有値・固有ベクトルの計算が必要になるため, 線形計算の技術が多く使われる. Toh 先生は非負半正定値最適化問題と呼ばれる最適化問題を解くためのソフトウェア SDPNAL+ を開発しており, この講演ではこのソフトウェアに実装されたアルゴリズムの概略と計算実験の結果が紹介された. 非負半正定値最適化問題は私も研究していた経験があり, SDPNAL+ が解くことができる問題の規模や得られた解の精度に驚かされた.

また, 一般講演でもいくつか興味深い話を聴くことができた. 機械学習における特徴選択を最適化問題として定式化すると L0 ノルム正則化項のついた非凸最適化問題となることがある. 多くの研究では L1 ノルム正則化によってこれを凸緩和した問題を解くが, 私が聴いた講演では L0 ノルム正則化項を非凸関数で近似して DC 最適化 (凸関数の差を目的関数とする最適化) と呼ばれるアプローチを用いる方法が提案されていた. 小規模なデータセットに対する計算実験では, L1 ノルム正則化と比べて少ない特徴量を選択できて高い正答率が得られるという結果が紹介されていたが, 大規模なデータセットに対してはどのような結果が得られるのか気になるところである. それ以外の講演では, 2 次制約つき 2 次最適化問題のいくつかの特殊ケースに対する解法に関する発表が面白く, 帰国後すぐに論文をダウンロードしてチェックした.

2 日目の夜には banquet が世界貿易センターで行われ, 質・量ともに申し分のない中華料理が振る舞われた. 序盤では台湾の伝統芸能が現代風にアレンジされた霹靂と呼ばれるショーが行われ, 大いに盛り上がった. また, 中盤では次回の ICOTA 10 が 2016 年の 7 月にウランバートルで開催されることが発表され, モンゴルの美しい高原や渓谷の写真が紹介された. 会議そのものは市街地で行われると思われるが, conference tour などでモンゴルの雄大な自然を堪能する機会があるだろう. 最適化やその周辺の研究を行っている方で興味のある方には, ぜひご検討いただきたい.



たなか みらい
東京工業大学 大学院社会理工学研究科 経営工学専攻
[Article: G1401C]
(Published Date: 2014/03/18)