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学術会合報告

RIMS 研究集会「新時代の科学技術を牽引する数値解析学」

木村 正人,野津 裕史



2014 年 10 月 8 日(水)から 10 日(金)の間に京都大学数理解析研究所において開催された標記の数値解析系の研究集会の様子について報告する.これは毎年秋頃に開催されている伝統ある研究集会で,1969 年の高橋秀俊東京大学名誉教授が代表者の研究集会「科学計算基本ライブラリーのアルゴリズムの研究」以来続いている.本年度は 45 回目で,木村(金沢大)が代表者となり,理論:数値解析 と 応用:現象の数理モデリングとシミュレーション手法,大規模計算,高速化アルゴリズム を 2 つの主軸とした講演を集め,異なる研究テーマを持つ研究者間の連携を共通の数理的理解を通して図ることを目的として開催された.各 35 分の講演が計 24 件行われた.

初日は午後 1 時に構造保存型数値解法の分野で活躍されている降旗氏(大阪大)の講演で始まり,同分野と線形計算に関する講演が計 6 件行われた.2 日目と 3 日目は 9 件ずつ講演があり,精度保証計算,モデリング,流体計算,流体−構造連成計算,大規模計算,移動境界問題,最適化,複雑流体 の内容があった.理論と応用の両面から多くの講演者が集まり,活発な議論が行われた.

特に全体を通して感じたことは,問題が複雑化している中で,数値解析への期待は高まっているということである.井手氏(アイシン・エィ・ダブリュ(株))の講演「自動車用オートマチックトランスミッションの固有値解析高速化 −Sakurai-Sugiura法と京コンピュータの産業応用−」はそれを表すものだったと思われる.複雑な構造物である自動車用オートマチックトランスミッションの振動を最適化理論で最小化する.その際に現れる固有値問題を Sakurai-Sugiura 法により高速化する,という話題であった.直感による改良方法では難しい構造物の肉厚分布の改善を最適化により実現しており,数値解析が科学技術計算に貢献したことを表す典型的な例のひとつといえる.

また,本研究集会のように異なる研究テーマを持つ理論と応用の幅広い研究者が集まり,共通の数理的理解を通して連携することは今後益々重要となるように予想される.現象の物理実験,モデリング,数値解法の開発,その数学的正当性の検討 を全て一人で行うことはほとんど不可能である.これらを高い水準で行うためには,それぞれの専門家が互いに協力し合う必要がある.今回,風間氏(統数研)の講演「ヒラムシから見る生物ロコモーションにおける柔構造運動制御 −数理モデリングとロボットへの応用−」と 澤田氏(産総研)の講演「旗のはためきの数値シミュレーションと理論解析」はほとんど直接に協力できる水準であったように思われる.両氏にとってよい機会となったならば幸いである.

2 日目の夕刻には,京都大学内のカフェレストラン カンフォーラにおいて 40 名程度の講演者と参加者が集まって懇親会が行われた.同会において来年度も申請する旨の報告があった.この歴史ある研究集会が,来年度以降も続くとともに数値解析が発展し,科学技術計算に貢献することを期待する.

最後に,本研究集会の趣旨に賛同して講演をしていただいた講演者および活発な議論をしていただいた参加者の皆さんに心より感謝する.



きむら まさと,のつ ひろふみ
金沢大学理工研究域数物科学系,早稲田大学高等研究所
[Article: G1410A]
(Published Date: 2015/03/14)