尾崎 克久
日本応用数理学会・計算の品質研究部会は1991年に初代主査伊理正夫先生から始まり,大石進一先生へと続き,活動は25年目に突入する.当研究部会の主な研究分野は「精度保証付き数値計算」,「計算機援用証明」とその関連である.研究部会便りとしての報告は,22巻1号以来の約3年ぶりとなる.前回以降の当研究部会に関連する活動や精度保証分野に関するトピックについて紹介しようと思う.
当研究部会の主たる活動の1つである学会でのオーガナイズドセッションであるが,直近の学会イベントであった2015年度日本応用数理学会年会では,15件の講演申し込みがあり,4セッションをオーガナイズできた.講演件数は,以前に比べて増加しており,また今後も精度保証に関する講演は極端に少なくならないと思われる.ここで特筆すべきは,中尾充宏先生と大石進一先生の研究室出身の研究者による講演がほぼ全てであった従来に比べ,近年は他の研究室出身の研究者の講演も増えている.また異分野の研究者と協働した研究成果の発表があり,精度保証分野の浸透と今後のさらなる発展を予想している.
JST / CRESTにおける「現代の数理科学と連携するモデリング手法の構築」領域において,「モデリングのための精度保証付き数値計算論の展開」というプロジェクトが2014年10月から立ち上がった.代表は当部会主査の大石進一先生で,荻田武史先生,山本野人先生,高橋大輔先生,渡部善隆先生,小林健太先生,山中脩也先生と尾崎が分担を務める体制であり,多くの先生方は当研究部会に関係する先生である.精度保証の分野としては,JST / CRESTの「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」領域における「非線形系の精度保証付き数値計算法の基盤とエラーフリーな計算工学アルゴリズムの探求 」(2009年10月~2015年3月)に続く.プロジェクトの成果は日本応用数理学会年会や研究部会連合発表会において多く発表されると思う.また,このような大型プロジェクトで活躍していた若手研究者が大学の研究教育職を得ている状況を非常に喜ばしく思う.具体的には木村拓馬氏が佐賀大学理工学部知能システム学科,劉雪峰氏が新潟大学大学院自然科学研究科に着任している.精度保証を研究できる拠点が広がっており,今後それらの研究室から新たな若手を輩出するなどの期待ができる.
最後に精度保証に関連するイベントについて紹介したい.精度保証付き数値計算を専門に扱う2年に1回の国際会議International Symposium on Scientific Computing, Computer Arithmetics and Validated Numericsがスウェーデンのウプサラで2016年に開催される.また,2018年は日本での開催が決定しており,当部会に関連するメンバーが主に運営をすることになるだろう.精度保証に直接関係がない方も,興味のある方にはぜひ参加をお勧めしたい.SCAN2016,SCAN2018をキーワードで検索をすると,今後検索できるだろう.また,三部会連携応用数理セミナーは年末のイベントとして恒例化してきたと思う.科学技術計算と数値解析研究部会,行列・固有値問題の解法とその応用研究部会とともに今後もセミナーを盛り上げていきたいと思う.
おざき かつひさ
芝浦工業大学,計算の品質研究部会幹事
[Article: I1506C]
(Published Date: 2015/12/18)