速水 謙
ICIAM には Edinburgh (1999), Sydney (2003), Vancouver (2011) についで4回目の参加となった.会場からオリンピック・スタジアムの横を通って歩いて30分ほどの, オリンピック選手の使ったホテルから通った. 大気汚染が心配されたが, それほどでもなく, 青空の見える日々であった. 参加者は中国人が多いようだったが, 3,400人と大入りであった. 場所は China National Convention Center 一か所に集中していたので, 60以上の並列セッションがあったが, セッションの途中で他の部屋に移ることも比較的容易であった. 開催前日のレセプションではおいしい料理と飲み物が豊富に用意され, 旧知を含め様々な人と交流することができた.
一方で, このような巨大な会議の運営は大変であろうが, 今後日本で誘致するときの参考のために, 気が付いた難点を述べると, ロビーなどでディスカッションをするための椅子やテーブルがきわめて少なかったこと, 休み時間のコーヒーの列が長蛇であったこと, 一部の講演の部屋が大きな部屋を簡易に仕切って用意したため, 天井部が筒抜けで隣のセッションの声が聞こえてくるため, 講演が聴きづらかったこと, 講演のスライドのアップロードの案内が会議直前であったために多少の混乱があったこと, 会議の登録料が早割でも 3,000元 (約60,000円) と高かったことなどである.
さて, 今回は最小二乗問題の数値解法に関する Mini-Symposium (MS-Mo-E-30, MS-Tu-E-26)を企画し, 座長を務めた. 6人の発表者が興味深い発表を行った. 具体的には, Yimin Wei 教授 (Fudan 大学) による total least squares problem に対する randomized algorithm, Xiao-Wen Chang 教授 (McGill 大学) による整数最小二乗問題の性質と解法, Bing Zheng 教授 (Lanzhou 大学) による非負制約付き最小二乗問題の反復法, Jose Mas 教授 (Valencia 工科大学) による更新された最小二乗問題に対する前処理付き反復法, 保國惠一博士 (筑波大学) による最小ノルム解を求める前処理付き反復法, 共著者の Ning Zheng 博士 (総合研究大学院大学) による箱型制約付き最小二乗問題の反復法に関する講演があった. このような MS は今や国際会議の定番であるが, 講演時間がたっぷりとれ, 比較的近い領域の討論を密に行えるので有意義である. 夕方には Wei 先生らの案内で会場の近くの手ごろな中華料理店に案内していただき, 交流を深めることができた.
他に, 個人的に興味深かった講演について触れる. 今回は, 数値線形代数に関する randomized algorithm の講演が何件かあった. まず, Ravi Kannan 博士 (Microsoft 研究所) の招待講演: Randomized Algorithm in Linear Algebra では, (巨大な) 行列の行または列の長さの二乗に比例した確率でサンプリングすることにより行列を近似する方法の理論と応用が紹介された. また, MS-Th-E-11 において, Ming Gu 教授 (California 大学 Berkeley 校) が Randomized Algorithms for Numerical Linear Algebra と題して, 行列の固有値の情報を抽出する新しい LU, コレスキー, QR 分解型の randomized algorithm の手法を紹介した. 応用は, 機械学習, カーネル学習などである. 同じセッションで Jie Chen 博士 (IBM Thomas Watson 研究所) が Linear-Cost Storage and Computation with Kernel Matrices と題して, カーネル行列の構造を利用して n×n の密行列を O(n) の記憶領域で保存し, O(n) の計算量で行列ベクトル積や逆行列, 行列式などを近似的に求めるアルゴリズムを紹介し, そのガウス過程のデータ解析やカーネル機械学習への応用について触れ, 注目を浴びていた.
また, 画像再構成に関する MS-Th-E-48, MS-Fr-D-48 等も興味深かった. 専門から少し離れた招待講演にも興味深いものがいくつかあったが, 紙面の都合で割愛する. 興味のある方は, http://www.iciam2015.cn/Program.html に会議のプログラムや各講演の概要があるので, ご覧いただきたい.
はやみ けん
国立情報学研究所
[Article: G1508B]
(Published Date: 2015/11/02)