神吉 雅崇
8月10日から14日にかけて北京にて開催された「8th International Congress on Industrial and Applied Mathematics」。この会議は4年に1回開催され、応用数学系の学会では世界最大であるといわれています。今回は約70か国から約3100人が参加したとのことです。ここではこの規模の会に初めて参加する若手研究者の立場からご報告をいたします。
私は学部時代に整数論を中心とする純粋数学を学び、大学院から可積分系とそれを利用した数理モデルという応用分野の研究を開始しました。本会議は典型的な応用数理系としての流体力学、PDE、数値計算などを中心として、完全な純粋数学から、生物学や社会学への応用まで多岐に渡るトピックの講演があり、どれを聴講するか考えるだけでも楽しいものでした。全体的な傾向として、日本では純粋数学系の研究集会でしか見られない分野も多くあり、一口に「応用」といってもより広い範囲をカバーしているようでした。
ここからは日程に沿って書いていきます。会議場の「北京国家会議センター(CNCC)」までは空港から地下鉄で乗り換えを含めて50分程度で、羽田空港から東大(駒場)までと同等の労力で到着しました。私は中国語が全くできませんが、漢字を見れば迷うことはありませんでした。開会式では国家副主席がスピーチをされるなど、中国側の力の入れ具合が伝わってくるものでした。警備は厳重で、会場に入るために手荷物検査と金属探知がある日時もありました。会議のスケジュールは、午前中に招待講演(3つがパラレル)があり、午後は66ものセッションがパラレルに開催されました。興味のある話を逃さないためには、分厚いプログラムとにらめっこし、どの講演に参加するかきちんと考える必要があります。昼食の提供は初日のみでしたが、会議場内には数百円相当で中華定食や麺類を食べられるフードコートがありました。夕食は最寄りの地下鉄の駅(オリンピック公園駅)付近のショッピングセンターのレストランで食べることが多く、予算は1000円~2000円程度でした。私が主に参加した午後のセッションは「Applied Integrable Systems」(応用可積分系)、「Ultradiscretization and its application in modeling」(超離散化とそのモデリングへの応用)、「Theory and applications of Painleve type equations」(パンルヴェ型方程式の理論と応用)です。特に「Applied Integrable Systems」では講演の機会を頂き、離散方程式の可積分性判定についての最近の研究結果を話すことができました。可積分系分野のA. Mikhailov氏から肯定的なコメントを頂いたことが嬉しく印象に残っています。国内では論文で名前を見かけるだけの研究者に生で会えることが国際会議ならではの楽しみです。他の先生方や同年代の研究者からも、調査が甘く知らなかった文献を教えてもらったり、純粋数学的観点からの質問をもらったりし、良い刺激になりました。多様な視点にさらされることが研究の進展に大きく役立つことが実感できました。他のセッションでは、例えばセルオートマトンによる血管や腫瘍の形成のモデル化などの医学・生物学への応用が紹介されたり、パンルヴェ方程式の高次元化についての講演がなされたりし、可積分系の理論面・応用面でのさらなる拡がりの可能性を感じました。
会場については、66ものセッションが同時進行であるため、セッションによっては、広いホールを垂れ幕で区切って使っているケースもありました。応用数学がこれだけ多岐に渡って発展していることは大変良いことですが、これ以上規模が大きくなると、開催できる場所も限られてくるだろうと懸念されました。ICIAM2023の日本招致という壮大な計画がありますので、一会員としてですが知恵を絞っていければと思います。末筆になりましたが、本学会参加にあたってJST CRESTより旅費補助を受けましたことをここに感謝いたします。
かんき まさたか
東京大学大学院 数理科学研究科
[Article: G1509A]
(Published Date: 2015/11/02)