林 俊介
最適化は工学の諸分野における基本的なテーマであるだけでなく,自然科学や社会科学の領域においても現れる重要な概念である.近年,計算機の著しい発展に伴い,大規模な最適化問題を現実的な時間で解くことが可能となったが,依然として解くことが困難なクラスの問題も多く存在し,それらをどのように工夫して解くか,どのように効率的なアルゴリズムを構築していくかは依然として重要な課題である.また,現実問題をどのように最適化問題に帰着させるかという「モデリング」については,その性質上,計算機のみで取り扱うのは難しく,いまだ人の力に拠るところが大きい.
そこで,「新時代を担う最適化:モデル化手法と数値計算」と題し,平成27年8月31日と9月1日の2日間,京都大学数理解析研究所(RIMS)で研究集会を実施した.最適化に関するRIMS研究集会は,1998 年の「数理最適化の理論と応用」に始まり,2014年の「最適化アルゴリズムの進展:理論・応用・実装」に至るまで,過去17年間欠かすことなく開催され,様々な分野の多くの研究者により活発な議論と情報交換が行われてきた.特に,国内の最適化の分野においてRIMS研究集会の占める位置はとても大きく,教授クラスのベテラン研究者からポスドク助教クラスの若手研究者に至るまで自由闊達な議論がなされ,これまでこれらの研究集会における議論から生まれた研究成果が数多く残されている.また,一般の研究集会では,モデリング・アルゴリズム開発・問題解析は別セッションに分けられることが多いが,本研究集会では,単一のセッションで発表を行うことにより,各参加者に幅広い話題に触れる機会を提供することが特徴として挙げられる.
本研究集会では,40名弱の参加者を集め,16の講演を二日に渡って行った.実際,参加者のみならず発表者も修士課程の学生からベテランの教授に至るまで幅広い年齢層であった.大きく分けて午前は離散最適化のセッション,午後は連続最適化のセッションという構成であった.大阪大学の梅谷俊治氏による「ジャーナル購読計画の効率的な作成」と題された発表では,近年,各大学で問題になっているSpringerやElsevierといった学術雑誌出版社の購読料値上げに対し,大学の各部署でどのように購読計画を立てれば,購読料を予算内に抑えつつ,各部署の要求を満たせるかについて議論がなされた.その際,数理モデル化やその求解にあたって,最適化やオペレーションズリサーチの技法を用いることが重要であることが主張された.また,東京理科大学の奥野貴之氏による「半無限半正定値計画問題に対する主双対パス追跡法」では,半正定値錐制約と無限個の非負制約をもつような高度なクラスの最適化問題に対して,線形計画法で長年用いられてきた主双対パス追跡法を拡張したアルゴリズムの提案がなされた.半無限半正定値計画問題に対する既存のアルゴリズムでは,各反復で何度も有限変数の半正定値計画問題を解いて部分問題の解の列を生成するものが多かったが,本研究で提案された手法では,そのような欠点を回避できるところが長所として挙げられていた.他にも局所探索法,逐次射影法,メモリーレス修正SR1法といったアルゴリズムに関する理論的な話題から,スタッフスケジューリング問題,マルチリーダーフォロワーゲーム,通勤時刻選択問題といった応用色の強い話題まで幅広い研究成果が発表され,2日間とも大変充実した研究集会であった.
はやし しゅんすけ
東北大学 情報科学研究科
[Article: G1509E]
(Published Date: 2015/11/02)