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学術会合報告

RIMS研究集会「現象解明に向けた数値解析学の新展開」実施報告

村川秀樹,齊藤宣一



RIMS研究集会「現象解明に向けた数値解析学の新展開」が2015年11月18日(水)から20日(金)の間,京都大学数理解析研究所において開催されました.本研究集会は,1969年の高橋秀俊東京大学名誉教授が代表者の研究集会「科学計算基本ライブラリーのアルゴリズムの研究」から続く研究集会で,今年で47回目(※)となる伝統のある研究集会です.本年は齊藤が代表者,村川が副代表者を務めさせていただきました.

本研究集会では,次の2つのことを主軸として,最新の研究成果のサーベイのみならず,諸分野における現状と課題などについての講演を企画しました.

a) 数値解析学の基盤の強化と情報の共有,
b) 数値解析学と諸科学の連携.

工学分野と数値解析学分野との協働は古くより行われており,その連携によって科学が発展してきたという側面と,現場からの要請により数理,数値解析の立場から現象に迫ることによって,新たな問題発掘や数学理論が発展してきた側面があるように思います.それに対して,生命科学と数値解析学の連携は近年徐々に増えつつありますが,まだまだ黎明期にあるように思われ,今後の連携によって双方の発展が期待されるところです.こうしたことを踏まえ,工学分野との連携の強化,生命科学分野との協働関係構築のきっかけとなることを期待して,工学,生命科学の分野からのご講演を多めに企画したことが,本年度の特色です.

本研究集会では,2件の特別講演,18件の招待講演,12件のショートコミュニケーションズが行われました.

特別講演2件は

三浦岳先生(九州大学大学院医学研究院)
発生におけるマルチスケールのパターン形成現象

松尾宇泰先生(東京大学大学院情報理工学系研究科)
数値計算における「構造保存」の考え方について

でした.

三浦先生は発生生物学の分野で,数理との連携を積極的に行われている方です.主に,構造のよく分かっている反応拡散系を用いたモデリングおよび数値計算によって,生命現象の本質の理解にアプローチされてきました.今回のご講演では,生物の形にしばしば現れるフラクタル構造がいかに形成されるのか,そのメカニズムの理解のために現在行われている考察について概説されました.非線形拡散を取り扱う必要や,マルチスケールの数値計算が必要となる可能性が指摘され,数値解析学がこれまでに培ってきた知識や技巧が,直接的に役立つことが結構あるように感じられました.

松尾先生は,Runge-Kutta法に代表される汎用数値解法,汎用解法の限界が明らかとなるに連れて進展してきた個別の問題に対する特殊な数値解法,そこから構造保存という考え方が生まれた歴史的背景を概観され,構造保存型数値解法の基本的アイデアや現状について概説されました.更には,応用家との協働の重要性,構造保存という考え方の今後の展望についても言及され,まさに数値解析学の現状と今後を俯瞰された話でした.

3日間に渡る18件の招待講演,若手を対象としたショートコミュニケーションズ12件では,大規模数値計算,ハイパフォーマンスコンピューティング,精度保証,有限要素解析,爆発問題や自由境界問題など現象解明に向けた数値解法の開発・解析,工学・生命科学の現場における問題・モデリング・数値計算など,多岐にわたる内容について最新の研究成果が報告されました.数値解析学における最新の話題の共有,工学・生命科学の現状についての様々な情報交換ができたのではないかと思います.

19日(木)夕刻には懇親会が行われました.乾杯のご挨拶を三井斌友名古屋大学名誉教授にお願いしました.ご挨拶の中で,三井先生がこの47回続く一連の研究集会全てにご出席されているということを伺いました.数値解析学を先導,牽引されてきた先生が,この研究集会を大事にされているということ,数値解析学を陰にも支えてこられたことに感銘を受けました.このような研究集会の運営に携わることができ,大変光栄に思います.

来年度も引き続き,齊藤が代表者として研究集会「現象解明に向けた数値解析学の新展開II」を開催するべく準備中です.

最後に,本研究集会の趣旨に賛同しご講演をいただきました講演者の皆様,また,参加をしていただきました皆様に,心より感謝を申し上げます.

(※) 昨年の報告からカウントすると,今年は46回目となりますが,三井斌友先生のご指摘により数えなおした結果,今年は47回目であることが分かりました.三井先生ご指摘有難うございました.

 



むらかわ ひでき,さいとう のりかず
九州大学大学院数理学研究院,東京大学大学院数理科学研究科
[Article: G1511A]
(Published Date: 2016/01/30)