書評

『流体-構造連成問題の数値解析』(Y. Bazilevs, K. Takizawa, T. E. Tezduyar 著, 津川 祐美子, 滝沢 研二 訳)

野津 裕史



本書は、“Computational Fluid–Structure Interaction: Methods and Applications” (Wiley,2013) の訳本で、ALE (arbitrary Lagrangian–Eulerian) 法とST (space–time) 法に基づく有限要素法による流体-構造連成 (FSI) 問題の数値解法が解説されています。原本の著者らは、特に計算力学のFSI分野において世界を牽引している研究者です。なお、共訳者の一人である滝沢研二氏は原本の著者の一人であり、誤訳がないように配慮されています。

本書は、タイトルにあるようにFSI問題のための有限要素解析(FSI有限要素解析)の解説書ですが、それと同時に、基礎的な内容にも十分な紙面が割かれていて、教育的な本となっています。第1章「流体と構造の支配方程式」と第2章「静止領域問題の有限要素法の基礎」において、流体問題と構造問題のための有限要素法を学ぶことができます。第2章では、原著者らを含む多くの研究者によって構築されてきた安定化法やマルチスケール法がコンパクトにまとめられています。

第3章「アイソジオメトリック解析の基礎」では、精度の高い数値解法として近年注目されているアイソジオメトリック解析について解説されています。領域形状がNURBS (non-uniform rational B-spline) を用いて与えられたときに、有限要素法の基底関数にNURBSを用いることで領域形状を完全に再現でき、また精度も高いことから、今後も発展していくと考えられる解析方法です。

そして、第4章「移動境界/界面のためのALE法とST法」において、移動境界/界面が導入された問題の定式化、第5章「ALE法とST法によるFSI」において、FSI問題の定式化が行われます。本書では、例えばレベルセット法のような界面捕獲法(静止メッシュ)ではなく、界面追跡法(移動メッシュ)により、界面近傍での十分な流体解析精度を確保するという立場がとられています。そのため、移動メッシュの技術が必要となりますが、これについても、例えば5.4節「高度なメッシュ更新手法」において述べられています。

第6章「高度なFSI法とST法」において原著者らが用いているFSI有限要素解析手法についての詳細な手続きが記述されています。行列の形や、時間の離散化へのNURBSの利用、連立一次方程式の解法などです。第7章「FSIモデリングの一般的な適用と例」以降は具体的なFSI問題・適用例やより高度な技術が、豊富な図表を用いて解説されています。

実際にFSI有限要素解析を行いたいと考えている読者には、本書はよいテキストであると評者は考えます。なぜなら、本書の中にはFSI有限要素解析における課題解決の歴史が詰め込まれているからです。例えば、2次元問題で単純に細長い四角い棒を剛体として動かそうとしてみましょう。すぐに、期待しているようにはメッシュが動かないことがわかります。本書には、そのような課題が現れた際の解決方法が書いてあります。課題が出てきたら本書を開けば先に進めます。そうして、計算力学における最先端のFSI有限要素解析へと導いてくれます。個人的には、第9章「パラシュートのFSI」の構造物が軽く流体力に敏感な場合のFSIや、第10章「風車の空気力学とFSI」のアイソジオメトリック解析を用いた実スケールでのFSIの内容には驚きました。

本書は原本の発売から3年経っていますが、現在もこれが基礎となっており、FSI有限要素解析の初学者から専門家までのみなさんに有益と考えます。原本の著者の一人が日本人(滝沢氏)で、共訳者の努力により最先端の結果の解説を正確な日本語訳で読めるのは嬉しいことです(しかも原本よりも安価です)。多くの人がFSI分野に参入して、日本の計算力学分野が活性化され、その利用により日本の科学技術計算や数値解析がより発展することを祈っています。



のつ ひろふみ
金沢大学理工研究域数物科学系
[Article: J1512A]
(Published Date: 2016/08/07)