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ラボラトリーズ

チェコ工科大学応用数学グループの紹介

榊原 航也



今回,私は,チェコ工科大学に,12/21〜3/12の間,計3ヶ月弱滞在する機会をいただきました(正確に述べれば,数物フロンティア・リーディング大学院の修了要件として,海外研究機関に滞在することが含まれていたためです).本稿では,チェコ工科大学についてはそれほど触れずに,チェコでの生活面に焦点を当てつつ,チェコに研究滞在する人を増進することを目標としたいと思います.

チェコ工科大学は,プラハに位置する大学であり,プラハには他にカレル大学があります.プラハまでの直通便は残念ながらないため,ヘルシンキを経由してプラハに行きました.空港には,私を受け入れてくださったMichal Benes先生,ならびに,ポスドクのPetr Pausさん(Petrとは,彼が日本にいる間に交流があり,私を迎えに行くというメールを出してくださいました)が迎えに来てくださいました.Benes先生は,移動境界問題を精力的に研究されており,私の最近の研究テーマと近いこともあり,私の研究滞在を引き受けてくださいました(メールを出してから5分程度であっさりと決まったことには大変驚かされました).私が宿泊したところは,Baterie(地名,日本で言うところの田園調布に該当するらしいです)というところにある,研究者たちが利用するアパートでした.手配は全てBenes先生がやってくださり,空港からバスとトラム(路面電車)を乗り継いで,30分程度で到着しました.管理人ならびに娘さんの家族の出迎えを受け,最上階の部屋に案内されました.キッチン,ダイニング,リビング,トイレ,シャワー,寝室と,一人で暮らすには申し分ない広さであり,これで家賃は,光熱費込で一月8900CZK(1CZK=約4.7円)というから驚きです.

Baterieからチェコ工科大学までは,トラム18番に乗って,20分少々揺られ,Moranというところで降り,2〜3分歩けば到着します.途中,トラムの窓から見える景色には,いたるところに世界遺産が散りばめられており,特に,橋の上からはプラハ城ならびにカレル橋を見ることができます(下の写真は,私が撮影した,カレル橋とプラハ城を収めた写真です).さらに,カレル橋のすぐ目の前をトラムは通り過ぎるのですが,そこには多くの観光客が連日いました(観光客ばかりで,チェコ人を探す方が困難です).チェコ工科大学に話を戻すと,日本のようなキャンパスがあるわけでなく,1つの大きなビルが街中に溶け込んで建っているため,油断すると通り過ぎてしまいます.建物そのものは非常に歴史があり,昔は囚人の監獄として使われていたとのことです.そのため,授業では,先生方は,「ちゃんと授業を受けてレポートを出さないと,監獄に放り込むぞ」と言って脅したりするそうです(幸いにも,私は監獄に放り込まれるようなことはなかったです).建物に入り,1つ階を上がって左に行くと,そこに数学部門が位置しています.電子ロックがかかったドアを抜けて目につくのが次の写真に見られる壁です(いったい誰がこの文字を書いたのかは,ここでは明かさないことにしましょう).これ以外にも,多くのところで日本を感じることができ,日本人の受け入れを非常にポジティブに行っている印象を受けました(実際,2007年から,毎年のように日本人研究者がチェコ工科大学を訪れています).私は,Benes先生の部屋の一角(入り口近く)にスペースをいただき,そこで勉強・研究をしていました(机の上にはSlivovice(ブランデー)を置いていましたが,そこまで飲んだくれた生活はしていません).

ここからは,チェコ工科大学近辺のことに内容を移していきましょう.まず,食事事情からですが,チェコ工科大学内には学食はなく,カレル大学のMenzaを学食として利用しています.学食用のカードを購入し,それにお金をチャージして,カード決済するのが基本です.Menzaでは,教員と学生とで値段が異なっていることも,日本とは異なる点であると思います(私は学生料金で利用できました).Menzaにいかない場合は,近くのチェコ料理店,タイ料理店,中華料理店などに行くことになります.これら後者3店に行くと,当たり前のように,昼間からビール(500ml)を飲むことになります.チェコは,言わずと知れたビール大国であり,多種多様なチェコビールが存在します(いわゆる大手ブランドとしては30種類程度あり,プライベートブランドを含めると,200種類程度あるそうです).私は根っからの酒(専門はビール,日本酒,ワイン,ウイスキー,ブランデー)好きなので,喜んで昼間からビールを飲んでいました(余談ですが,チェコでビールを頼むと当たり前のように500mlサイズが出てきて,330mlサイズを頼むと赤ちゃん扱いされます).1杯150円程度で飲めるので,経済的にも非常に助かります.美味しいので時間を問わずに飲んでいたら,最終的には,チェコ人よりも飲む日本人と認定していただきました(おそらく私が初めてです).さらに面白いのは,グラスには,500mlラインが引かれており,泡と液体との境界がぴったりそのライン上に来るように入れて提供しないといけないというルールがあることです.そのライン上に境界が来ていない場合は,店員に言うことで,新しいビールと取り替えてもらえます.ビールに合うように作られたとしか思えないチェコ料理は,日本人の舌にも合う美味しさでしたが,毎日食べ続けるのはいささかきついので,よく(ベトナム人が経営する)タイ料理店,中華料理店にいっていました.こちらもなかなか美味しくて,よく通っていたら色々なところで顔を覚えられました.さて,お昼を食べる以外にも少し外出してみると,有名なDancing Houseがあったり,第2次世界大戦の実情を物語るモニュメントが近くにあります.また,少し時間をかけて(15分くらい)移動してみると,旧市街広場に出ることができ,古きよき街並みの中に入り込むことができます.クリスマスマーケットやイースターのお祝いなどやっている時期に行くと,さらに別の雰囲気を感じることができます.

さて,ここまで書いて,自分の研究のことには一切触れませんでしたが,このような記述でも良いと思ったので,あえてざっくばらんに書かせていただきました(念のために述べておくと,チェコ工科大学,およびカレル大学のセミナーで自分の研究について1時間ほど講演し,多くの議論を交わすことができました).私が確実に言えることは,チェコには日本文化が広く知れ渡っており(例えば,初釜やアニメフェスタのようなイベントが開催されます),チェコ工科大学の皆さんは,ホスピタリティー溢れる対応をしてくださることです.一定期間,日本から離れて研究をするには最適の環境と言えます.少し疲れたら,プラハを観光していると,程よく気分をリフレッシュすることもできます.街中で英語が通じないことが多々あるのが大変ですが,これを機にチェコ語をしっかり勉強するのもいいのかもしれません(私は本当に最低限のことしか学べませんでしたが).本稿を読んでくださった方が,私がチェコでの生活を満喫していたことを感じ取っていただければ,それで本稿の目標は達成されたものと考えています.

最後に,少し長めの謝辞を書いて,本稿を締め括りたいと思います.齊藤宣一先生(東京大学)は,私にチェコ行きを勧めてくださいました.矢崎成俊先生(明治大学)は,Benes先生に直接コンタクトをとっていただき,私のチェコ行き実現に協力していただきました.数物フロンティア・リーディング大学院には,私のチェコ行きならびに滞在に関する費用を全て出していただきました.そして,Sさん(匿名)は,初めての一人暮らしを海外でスタートさせた私のことを,日本から精神的に支えてくださいました.Sさんのおかげで,私のチェコでの生活は非常にうまくいきました.そのほかにも,多くの皆様の支えのおかげで,私のチェコ滞在は成功裏に終わりました.ここに,厚く御礼申し上げます.

本稿が,チェコに研究滞在する(またはしようと考えている)方々のささやかな後押しになることを期待しつつ,ここで終わりとさせていただきます.



さかきばら こおや
東京大学大学院 数理科学研究科
[Article: D1512A]
(Published Date: 2016/06/11)