澤田 宙広,柘植 直樹,宮島 信也
2016年8月8日から10日まで,表記研究会が飛騨高山まちの博物館(岐阜県高山市)で開催された.本稿では,運営責任者である筆者らが本研究会の報告を行う.
高山の魅力については,第2回岐阜数理科学研究会の報告で詳細を述べた.興味のある方はこちらを参照されたい.なお,今回の参加者の1人が高山について「町全体がテーマパークのようだ」とおっしゃっていた.この言葉が高山の魅力を端的に表しているのかもしれない.8月に高山で開催したのは今回が初めてであったが,これはこれで快適であった.実際,開催期間中,東京は猛暑であったが,高山は涼しかった.
過去の研究会と同様に,今回も微分方程式論と数値解析を主なトピックとした.「第2回の報告」でも述べたが,純粋数学と応用数学の研究者とが接点を持つことができた.実際,研究会終了後に,宮島は参加者の1人から「他分野の先生方との交流や食事など,有意義な時間を過ごすことができた」という内容のメールをいただいた.9件の50分講演と10件の30分講演が行われ,参加者は40名程度であった.講演内容の詳細については,こちらを参照されたい.
どの講演も数学的興味を刺激するものであったが,筆者らが特に面白いと感じたものを講演順に挙げておく.これらの内容は普段の学会では聴講することのできない貴重なものであった.
名古屋大学の三井斌友先生は日本の数値解析の黎明期から現在までを大変面白く解説してくださった.特に,日本の数値解析分野の著名な先生方(三井先生を含む)の若い頃の写真が数多くスライドに掲載されており,数値解析系の聴講者は大いに盛り上がった.宮島は本講演の最中に「○○先生若い!」と叫んでしまった.他の数値解析系の聴講者も心の中で叫んでいたに違いない.本講演の内容は日本の数値解析の歴史を語る上で大変貴重な資料であり,体系立てた形で後世に残すよう,聴講者より提案がなされた.
早稲田大学の高橋大輔先生は故・広田良吾先生の生涯ならびに偏微分方程式の解法である「広田の方法」を紹介された.広田先生を長年近くで見てこられた高橋先生ならではの言葉・画像により,聴講者は広田先生がいかにしてこの方法を確立されたのか,その経緯を知った.特に,広田先生が手計算したノートが高橋先生の居室に数多く残されていたという話は印象的であった.それらのノートの中の一部も本講演では公開され,この方法を生み出すために,広田先生がいかに膨大な手計算を行っていたのかがよく分かった.この事実を裏付けるかのような広田先生のお言葉「Calculation,just calculation」と共に本講演は締めくくられた.
初日の最後に,東北大学の西浦廉政先生がご自身の幼少期から現在に至るまでの話をされた(上記リンク先とは講演内容が異なるので注意).お父さんの話,好きな本の話等,一見すると数理科学とは無関係に思われる話もあった.しかし,そのような話の中からも,「数理科学ならびに研究者とはどうあるべきか」に対する西浦先生のお考えが伝わってきた.特に,数理モデルに対するお言葉「膨大な贋作があって本物がある(すなわち,不十分なものを沢山作らないと本物はできない)」には感銘を受けた.
最後に,毎度のことながら,興味深いご講演をされた講演者の皆様,活発なご議論により研究会を盛り上げてくださった参加者の皆様,会場運営の手伝いをしてくれた岐阜大学の学生諸君に,この場を借りてお礼を申し上げたい.
さわだ おきひろ,つげ なおき,みやじま しんや
岐阜大学 工学部,岐阜大学 教育学部,岩手大学 理工学部
[Article: G1609B]
(Published Date: 2016/10/26)