剱持 智哉
はじめに
私は2016年10月13日から12月10日の間,ドイツのダルムシュタットにあるダルムシュタット工科大学に滞在しました.この滞在は,早稲田大学の日独共同大学院プログラム 「流体数学」(http://www.japan-germany.sci.waseda.ac.jp/)における学生派遣事業によって派遣して頂いたことで実現したものです.受け入れてくださったのはドイツ側の流体数学に関するプロジェクトであるIRTG 1529(http://www.mathematik.tu-darmstadt.de/~igk/)であり,受入教員はMatthias Hieber先生でした.私は数値解析が専門ですが,特に最大正則性の離散化に関連する研究をしているため,最大正則性に関して多くの研究をされているHieber先生に受け入れて頂くこととなりました.本稿では研究の具体的な内容に関しては立ち入らず,ダルムシュタットの街や大学の様子について紹介したいと思います.
ダルムシュタットについて
ダルムシュタットはフランクフルト(フランクフルト・アム・マイン)から南に約30kmの位置にあります.フランクフルト・アム・マイン空港からダルムシュタットの中心地であるルイゼンプラッツまでは直通バスが走っており,空港から30分ほどで行くことができます.日本からフランクフルトまでは直行便がありますから,ダルムシュタットへのアクセスは良好です.また,レストランやスーパーマーケットでは英語がある程度通じるため,生活しやすい街であると感じました.
ダルムシュタットには,19世紀末に当時の大公がマチルダの丘と呼ばれる丘に芸術家コロニーを創設した影響で,美術館や博物館が多くあります.特に,マチルダの丘にはその当時の芸術に関する博物館があるようです.マチルダの丘には他にもホッホツァイト塔という大きな建造物や,ロシア正教会聖堂という聖堂があり,観光地となっています.ホッホツァイト塔は大学からも見える程度に大きく,聖堂はとてもきらびやかで,どちらも非常に印象的でした.これらの華やかさは,言葉よりも写真の方が伝わりやすいかと思います.
12月のドイツと言えば, クリスマスマーケットです.中心地のルイゼンプラッツとその周辺でも,11月末からクリスマスマーケットが開催されていました.開催前はただの広場でしかなく何もなかったところに日本の祭りの屋台のようなものがぎっしりと並び,賑やかなマーケットとなっていました.屋台と周辺の木はLEDライトで彩られ,とても華やかでした.屋台ではドイツ名物のソーセージと共に,ホットワインが売られていました.寒空の下で飲むホットワインは非常においしかったのですが,寒さのせいですぐに飲み干してしまうので,飲み過ぎには気をつけなければなりません.
ダルムシュタット工科大学について
さて,次は滞在していたダルムシュタット工科大学と,受け入れて頂いたプロジェクトのIRTG 1529について説明したいと思います.大学はルイゼンプラッツの近くにあり,ゲストハウスからはバスで10分程度で行くことができます.前述のプログラム用に日本人専用の部屋が用意されおり,私はそこで研究をしていました.日本とは異なり,院生やポスドク2人に対して1つの部屋が割り当てられるという点が特徴的です.また,多くの人が部屋のドアを開けたまま研究しているというのも印象的でした.
私が滞在している間,IRTG 1529の学生やポスドクの方々がお世話をしてくださいました.このプロジェクトは流体数学に関するプロジェクトであるため,多くの人が流体の方程式を研究しています.特に,地球の大気や海流の運動のモデルであるprimitive方程式に関する研究をしている方が多いようでした.私のように数値解析の研究をしている方はほとんどいませんでしたが,何人かの方は私の研究に興味を持ってくださり,議論をして頂くことができました.また,Hieber先生も,忙しいのにも関わらず合間を縫ってミーティングの時間を設けてくださり,議論やアドバイスをして頂きました.ポスドクの方も多くのプロジェクトを抱えて忙しいように見えましたが,先生とのミーティングに一緒に参加してくださり,多くの意見を頂きました.精力的に活動する彼の姿に,私はとても刺激を受けました.
研究集会について
滞在中の2016年11月30日から12月2日にかけて,大学近くのダルムシュタッティウムという会議場で,研究集会 The 13th Japanese-German International Workshop on Mathematical Fluid Dynamics が開催されました.これは前述の2つのプロジェクトによって早稲田大学とダルムシュタットにおいて定期的に開催されている研究集会で,日本からは小薗英雄先生(早稲田大学)や小川卓克先生(東北大学)を始めとして,多くの先生方やポスドクの方々が参加されていました.私も参加して,10分だけでしたが講演の機会を頂きました.集会では流体に関する講演だけでなく,確率微分方程式や,移流拡散問題など,幅広い分野の講演を聴講することができ,多くのことを学ぶことができました.
謝辞
最後に,この滞在に関わってくださった方々への謝辞を述べて,本稿を終わりにしたいと思います.まず,斎藤宣一先生(東京大学)と儀我美一先生(東京大学)には,私を早稲田大学のプロジェクトに推薦していただきました.早稲田大学の日独共同大学院プログラム 「流体数学」には,渡航における旅費と滞在費を全額負担して頂きましたし,プロジェクトのコーディネーターである小薗英雄先生,および秘書の池崎那津子様には,派遣の手続きに関して多くのご協力を頂きました.受入教員であるMatthias Hieber先生と秘書のEsther Bauer様,およびIRTG 1529のメンバーの方々には,研究面だけでなく,生活面においても多くのお世話をしていただきました.また,同じ時期にドイツに滞在していた日本人の先生方や先輩方などにも,多くのお世話をして頂きました.全員の名前を挙げられないのは大変恐縮ですが,全ての方々に厚く御礼申し上げます.
けんもち ともや
東京大学大学院数理科学研究科
[Article: D1610A]
(Published Date: 2017/02/20)