上田 祐暉
Team for Advanced Flow Simulation and Modeling (T*AFSM, http://www.tafsm.org/)は, ライス大学機械工学科のTayfun E. Tezduyar先生が中心となり, 流体現象の解析を専門に研究しているチームです. このたび筆者は, T*AFSMのもう一人の中心人物である早稲田大学創造理工学部の滝沢研二先生(http://www.jp.tafsm.org/ja/)にご紹介いただき, ライス大学に2ヶ月間滞在する機会をいただきました. 本稿では, 拙筆ながら私自身の経験を交えつつ, ライス大学及びT*AFSMについて紹介したいと思います.
まず, 私のライス大学留学の経緯について簡単に述べたいと思います. 私はNURBSの数値計算への応用に関する数学的研究に興味を持っています. 近年, NURBSの応用に関して多くの研究がなされていますが, 中でもTezduyar先生と滝沢先生を中心としたT*AFSMは, NURBSをspace-time法に応用することで, 複雑な流体現象のシミュレーションを行い, 様々な成果を発表しています. こうしたシミュレーションにおいて用いられる手法を数学の立場から研究したいと思い, Tezduyar先生にお願いしたところ, 先生のご快諾をいただきライス大学のT*AFSMで2か月の間受け入れていただくことになりました. その後, 英語の語学力試験(Skypeでのインタビューという形式で行われました)やビザの申請などを経て私のライス大学留学が正式に決定しました.
ライス大学のあるヒューストンは, アメリカ合衆国テキサス州に位置する, 全米第4位の人口規模を誇る大都市です. 高層ビルの立ち並ぶダウンタウン地区を中心部とし, そのほかにもさまざまな地区が点在しています. ヒューストン中心部から少し南に離れた場所には, テキサス医療センターと呼ばれる区画があり, 右も左も巨大な病院が立ち並ぶ医療の街といった様子になっています. なかでも中心部と病院エリアの間には, 緑豊かなHermann公園を中心に博物館, 美術館, 動物園, さらには日本庭園などが混在する地区があり, 休日は多くの家族連れで賑わっていました. ライス大学はHermann公園のすぐ隣に位置しており, あちこちにリスがいる自然豊かなキャンパスが広がっています. キャンパス内には, ローマ風建築の美しい建物が並び, 格式高いというのが第一印象でした.
留学前は, 英語の語学力試験を課されたこともあり, 英語が苦手な私にはつらい環境なのではないかと不安に思っていました. しかし幸いなことに, ライス大学では留学生を支援する部局が, 海外からの滞在者向けに勉強会やレクリエーションを定期的に開催するなど, 留学生に対し手厚いサポートを行っていました. 大学構内のカフェや休憩所などでは, 私が分かった限りでも中国語やスペイン語で会話している人たちを見かけるなど, 様々な国から学生を受け入れているようでした. 大学の積極的な姿勢だけでなく, 前述の通り大学近くには博物館や美術館もあるため, アメリカの文化, 歴史や自然について学ぶ機会もあり, アメリカでの生活を満喫できる環境が揃っています. また, ライス大学付近は比較的治安も良いらしく, さらに交通の便も良いため立地にも恵まれているといえます. 私の滞在も, ライス大学のサポートのおかげで非常に充実したものとなりました.
Tezduyar先生率いるT*AFSMは, ライス大学と早稲田大学に拠点を構えていますが, ライス大学には機械工学科の建物内の一室に研究室があります. ライス大学内のT*AFSMの研究室には6人の学生が在籍しており, これに滝沢先生の研究室からの留学生一人と私を加えた8人が研究を行っていました. 学生たちは現実の流体現象に対するシミュレーションを目標に研究しており, 彼らの応用を重視する姿勢が印象的でした. 研究室では学生一人ひとりに机とPCが与えられ, 各々がそれぞれのテーマの計算のため黙々と作業をしていました. 学生間の連絡やTezduyar先生との相談は, 主にメールやテキストチャットで行われるため, 研究室内は静かで落ち着いた雰囲気があります. しかしながらチャットを介した学生間の議論は活発で, 時には議論が白熱した結果, 誰ともなく一人の机の周りに集まり, PCの画面に表示したシミュレーション結果を見ながら意見交換することもありました. 各々が独立して作業を行う反面, 研究室内の結束は強く, 互いの研究に強く関心を持ち積極的に意見を交換する様子は, 数学の研究室と同じ文化を感じました. また定期的に行われるセミナーでは, スーパーコンピュータの利用やNURBSを応用したシミュレーション手法など, 様々なテーマに関する発表が行われていました. 特にNURBSの数値計算への応用は, 私自身がその数値解析を研究しているということもあり, それが流体シミュレーションにおいて実際に適用されている例を詳細に知ることができ, 滞在中でも特に印象深い経験でした.
T*AFSM全体としての研究テーマは, 対象とする問題が流体構造連成解析や自由境界問題, 二層流体問題など多岐にわたります. そうした問題は, 現実への応用のため空間3次元で計算しようとすると, その計算が極めて複雑になります. 加えてそれぞれの問題に対して, 安定化をどのように行うか, 得られたデータをどのように保存もしくは処理するか, 結果をどのように可視化するかなど, 多くの選択肢が存在しています. 特に我々数学の側からすると, こうした複雑さが相互理解の難しさに繋がっているのではないかと感じます. 特に私自身が, 数値計算手法の数学解析をテーマに研究を行っている関係で, 他分野との連携の重要性を痛感する一方で, その難しさにもどかしい思いをすることも多々ありました. 今回の滞在は, シミュレーション分野との連携に際し非常に有意義であろう知識と経験を得ることができた, 貴重な機会となりました. T*AFSMは, シミュレーションについての研究にも勿論, 関連する数値解析を研究する上でも非常に恵まれた環境でした.
最後に, 私にライス大学滞在を推薦していただいた齊藤宣一先生, 及びTezduyar先生との連絡を取り次いでいただき, さらに現地でもメールでのやり取りを通じてサポートしていただいた滝沢研二先生に, この場を借りて厚く御礼申し上げます. また, 私の海外渡航は, 東京大学数物フロンティア・リーディング大学院の支援を受けたものです.
うえだ ゆうき
東京大学数理科学研究科
[Article: D1610B]
(Published Date: 2017/03/08)