宮路 智行
AIMSの第九回国際研究集会はアメリカ合衆国フロリダ州オーランドで開催された.”The 9th AIMS Conference on Dynamical Systems, Differential Equations and Applications”である.開催期間は7月1日から5日までで,前回よりも1日長い日程らしい.会場は大型ホテルであるハイアットリージェンシーだった.
筆者が訪れたことのある同じくフロリダのマイアミとは雰囲気が違う.マイアミは海を臨む町だが,オーランドは内陸の都市であり,今回の会場近隣にはブエナビスタ湖をはじめとして多くの池や湖がある.先生方に「アリゲーターが出るかもね」と警告された.注意を促す看板もあった.結局遭遇しなかったが,道を歩けば右手中指ほどの大きさのトカゲと必ず出会った.ディズニーの魔法で小さくされたアリゲーターに違いない.観光都市オーランドが千葉県浦安市と姉妹都市の関係をもつのは,ディズニー・リゾートがあるからだ.7月4日のアメリカ独立記念日を迎える週のためか,夜10時頃,花火が盛大に打ち上げられていた.
AIMSの研究集会には初めて参加したが,規模の大きさに驚いた.主催者の発表によれば80近い国々から1200名もの数学者が集まったという.日本からの参加者も多かった.9名の基調講演と75のセッションがあった.どのセッションに参加しても何かを見逃して悔やんでしまう.学生時代に勉強した本の著者数名の参加を知り感激したが,残念ながら都合が合わず講演を聴き逃してしまった.
最も印象的だった基調講演はMichael Dellnitz教授(University of Paderborn)による力学系の不変集合を計算機で求める方法についての講演だった.基本的なアイデアは,相空間をコンパクト集合の和集合として表し,力学系による像と交叉しない集合を取り除き,残った集合をより小さいコンパクト集合の和集合として表すという操作を繰り返せば,力学系のアトラクタに収束するというものだと理解した.四角いブロックからLorenzアトラクタが彫り出されていく様子を見て,大理石の中に眠るあるべき姿を彫り出すのだというMichelangeloの話を連想した.しかし,計算機ならではの力業なので,ノミとしては豪快すぎるかもしれない.
筆者が講演を行ったセッションでは,Junping Shi教授(College of William and Mary)の反応拡散系における時間遅れによって誘導される不安定性の話が印象的だった.時間遅れをもつ微分方程式では特性方程式が非線形固有値問題になり,解析が難しい.時間遅れの数が増えるとほとんど手に負えなさそうである.しかし,時間遅れは数理モデルとして自然に出てくるものであり,今後ますます重要になってくるだろう.本格的に勉強しなければならないと思う.
あっという間に一週間が過ぎた.多くの刺激的な講演を聴き,国内外の研究者と議論する時間をもち,大変有意義な時間を過ごせた.美味しいお肉やお酒のある店へ連れて行っていただいた.毎晩Ale Houseで飲んだIndia Pale Aleをもう一度味わいたい.
次回,第10回は2014年7月7日から11日にスペインのマドリードで開催予定である.また是非とも参加したい.
最後に,本研究集会にお誘いくださり,講演の機会を与えてくださった森田善久教授(龍谷大学)ならびにJunping Shi教授に心より感謝を申し上げたい.
みやじ ともゆき
京都大学数理解析研究所
[Article: G1207B]
(Published Date: 2013/01/27)