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ラボラトリーズ

二酸化炭素の地中貯留の安全性評価

辻本 恵一



(1) CO2地中貯留の概念

近年、地球温暖化の防止対策のひとつとして、CO2(二酸化炭素)の地中貯留技術の開発が進んでいる。CO2の地中貯留とは、大規模CO2発生源である火力発電所、製鉄所、及び、セメント工場などから放出される排気ガス中のCO2を分離及び回収して、地下、又は、海底下の深部の地層中に、圧力をかけて注入して、大気から隔離する技術である。但し、人工的に設置したバリアの中にCO2を注入するのではなく、天然の地層に直接注入する方法が想定されている。CO2地中貯留の目的は、大気中CO2の濃度増加を抑制し、地球温暖化の防止に役立てることである。

炭素は地中に、石炭、石油、岩盤中の有機物、及び、炭酸塩などの形態を取って存在している。地中に存在する炭素は、かつては、大気中にCO2(気体)の形で存在していた。そこで、CO2地中貯留は、現在、多量の炭素が地殻中に存在するという自然現象の、時間スケールを変えた類似現象と考えることが出来る。更に、CO2の地層への注入は、1970年代以降、北米を中心に世界中の多くの地域で、石油の増進回収技術の一つとして実施されている。従って、CO2地中貯留は、実現性の高い技術であると考えられる。

CO2地中貯留を実現するためには、地中貯留が、経済的、及び、技術的に実現可能であり、環境への影響が小さく、安全上の問題がなく、更に、一般社会から受容されることが必要である。そのため、地中貯留されたCO2の安定性、及び、貯留可能な期間の評価技術の開発が必要である。

CO2を地層中に固定するために、物理的、及び、化学的メカニズムを利用するが、それらはトラップと呼ばれている。重要なトラップは以下と考えられている。

遮蔽層(キャップロック:貯留層を覆っている難浸透性の岩石)の下部の地層へ、CO2が注入されると、CO2は浮力により鉛直上方に移行するが、遮蔽層により移行が阻止され、遮蔽層の下部に固定される。このメカニズムは、物理トラップ、又は、構造トラップと呼ばれている。(図1参照)

又、CO2が地層内で移動する場合に、その一部が毛細管圧力により岩盤の空隙中に残留する。これは、残留ガストラップと呼ばれている。

更に、CO2が地層内に注入されると、地層水、及び、岩盤と化学反応を起こして、CO2が地層水に溶解する。CO2が地層水に溶解すると、CO2を鉛直上方向に移動させる駆動力である浮力が消失して、地層水中に固定される。これは溶解トラップと呼ばれている。又、CO2が地層水に溶解すると、最終的に安定した炭酸塩鉱物に変化する。これは鉱物トラップと呼ばれている。

以上のように、複数のトラップを利用すると、CO2の地層内への安定した貯留が可能であると考えられる。

図1 物理トラップ[1]

(2) CO2地中貯留の実証試験

新潟県長岡市において、日本初のCO2地中貯留実証試験が実施された。実証試験では、2003~2005年にかけて、総量10,400トンのCO2が、毎日20~40トンずつ、地中に圧入された。1本の圧入井と3本の観測井が掘削され、観測井中に計測機器を降ろして、岩盤中のCO2のモニタリングが実施された。更に、圧入終了後も、CO2のモニタリングは継続されている。CO2モニタリングにより、地中のCO2の広がりの大きさ、及び、CO2の状態(超臨界、又は、地層水に溶解した状態)を測定することが出来た。その結果、圧入されたCO2が、キャップロックの下側に、確かに貯留されていることが確認された。(図2参照)筆者が所属する地球環境産業技術研究機構では、地中に圧入されたCO2のモニタリング技術の開発だけでなく、CO2の挙動を予測するシミュレーション技術の開発も行っている。

図2 比抵抗検層から示されたCO2の分布[2]

(3) 地下水解析プロジェクトの概要

当機構のCO2貯留研究グループでは、日本の沿岸地域の海底下へのCO2地中貯留を想定して、貯留サイトの地下水流動解析に関する研究を行っている。現在、CO2貯留サイトの数kmサイズの3次元水理地質モデルを構築して、塩淡流を考慮した地下水解析、及び、CO2注入により発生する圧力伝播の影響範囲の解析を行っている。

今後は、CO2、地下水、及び、岩盤の地球化学反応を考慮した、地球化学反応と多相流のカップリング解析により、CO2プルームの移行解析を行う予定である。CO2注入点から離れたエリアの地下水流動のスケールと比べると、CO2注入点付近のCO2プルーム生成などのスケールは小さいため、注入点付近の計算体系のメッシュのサイズを細かく設定することが必要である。従って、地球化学反応と多相流のカップリング解析を精度良く実施するには、大規模計算技術の導入が必要であると考えられる。

当機構では、ボーリングデータなど実測データのモデルへの反映を念頭におきながら、計算技術の開発を行い、CO2地中貯留の現実的なモデルによる解析の実現を目指して、研究開発を進めている。

 

参考文献

[1] RITE web site: http://www.rite.or.jp/

[2] RITE, ”Development of CO2 Geological Storage Technology for Practical Use”, RITE Today ,vol.7, pp.21-23,(2012)

[3] IPCC, ”Carbon Dioxide Capture and Storage”, Cambridge University Press, New York, (2005)



つじもと けいいち
地球環境産業技術研究機構
[Article: D1304A]
(Published Date: 2013/12/17)