JSIAM Online Magazine


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学術会合報告

2013 SIAM Annual Meeting

保國 惠一



 SIAM Annual Meetingは平成25年(2013年)7月8~12日に米国サンディエゴで開催された。経由地のサンフランシスコ空港でアシアナ機事故が起こり、当初三日後の便に振り替えられたが、空港で空席待ちをして粘り、一日遅れで済んだ。そのため、一日目の夕食後に行われたCareer Fairという、Matlabで有名なMathWorks、Matrix Marketを運営するNational Institute of Standards and Technology等による就職説明会に興味があったが間に合わなかった。会場は大きなヤシの木々が印象的な、いかにもサンディエゴといった風情のリゾートホテルである。三軒ある食堂の料理は瑞々しさに欠けたり、味が感じられなかったりして、いまひとつ口に合わなかった。

 この会議に参加した主な目的は、SIAM Student Paper Prizeの拝受および受賞講演である。受賞式は二日目の昼食時に大広間で行われた。後ろの席から受賞者が見えづらく、様々な賞の受賞者が大勢いたため途中から騒がしかったが、案外後から「受賞した日本の方か」と何度も声をかけられた。実は日本人として初めての受賞である。賞状はSIAM PresidentのIrene Fonseca教授から授与され、受賞講演の座長はVice President for EducationのPeter Turner教授だった。受賞論文(Morikuni, K. and Hayami, K., Inner-iteration Krylov subspace methods for least squares problems, SIAM Journal on Matrix Analysis and Applications, Vol. 34, pp. 1-22, 2013)の内容は、最小二乗問題に対する新しい前処理として定常反復法を複数反復適用する提案および数値実験での性能評価である。受賞論文掲載誌は当該分野のトップジャーナルであり、投稿までには実に多くの先生から頂いたコメントに基づいて修正を重ねた。執筆から査読、修正の間には、「学生は業績を数で稼いだ方がいい」「和文誌の方が楽ではないか」という「誘惑」が何度もあったが、「この成果はトップジャーナルに載せる価値がある」という確信があったので、「ならば通してやろう」と芽生えた意志を初期衝動にして投稿から1年半で受理された。

 SIAM Student Paper Prizeの応募には対象論文に加え、A4判五頁の概要を提出した。概要には“Highlight”という節を設けたり、斜体を用いたりして「自分が審査員だったら読んでみたいこと」を念入りに強調した。他に、推薦書を共著者で当時の指導教員である速水謙教授(国立情報学研究所、総合研究大学院大学)にお願いし、必要書類ではないがcover letterを付した。受賞通知が電子メールで届いたときは、誤送信だろうとしばらく返信を躊躇ったが、やり取りを進めるうちに受賞した実感が湧いてきた。

 講演の多くはミニシンポジウムで構成され、それぞれが興味の赴くまま企画されているようで、とても解放的な雰囲気であった。特に、医療やレーダー等の画像科学に関する講演が豊富で、この分野の盛り上がりを感じた。日本からの参加者・企画が少なく、特に若い世代にとっては絶好の機会だと思うので積極的に提案してはどうか、と感じた。

 東京大学の西成活裕教授による渋滞学に関するplenary talkが興味深く、動画を効果的に使った説明は聴衆を大いに沸かせ、あとから聴衆から聞いた意見でも好評であった。

 一方、前SIAM PresidentのNick Trefethen教授によるMatlabツールボックスChebfunに関するplenary talkも面白かった。前半はスライドで関数解析的な文脈と線形代数的な文脈との対比を行い、後半はChebfunを実際に披露した。中でもChebsnake(Chebyshev補間を使ったゲーム)が聴衆を沸かせた。直後のミニシンポジウムでは、デモのみで講演を行い、性能をアピールするために聴衆から被積分関数を募るといった対話的なスタイルが印象的だった。

 次回も日本からSIAM Student Paper Prize受賞者が現れることを期待している。



もりくに けいいち
国立情報学研究所
[Article: G1307E]
(Published Date: 2013/09/24)