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ラボラトリーズ

Institut de Mathématiques de Marseille滞在記

物部 治徳



はじめに

 

私は2018年2月1日から3月15日の約1ヶ月半、フランスのマルセイユにあるエクス・マルセイユ大学、およびパリにあるEHESS、パリ第11大学に滞在して研究を行いました。本稿では、私がフランス滞在で経験したことを紹介させて頂きます。

 

エクス・マルセイユ大学とマルセイユ

 

私は、近年、自由境界問題や反応拡散方程式系の特異極限に現れる界面運動を記述する縮約方程式を解析しており、曲面の凸性や特殊解(進行波解など)の研究をしています。今回、岡山大学の海外派遣の機会があることを知り、私の研究分野の第一線で活躍しているエクス・マルセイユ大学のHrancois Hamel先生を訪ねさせてもらうことになりました。エクス・マルセイユ大学は2012年に創設された大学ですが、母体は15世紀に設立されたエックス大学に遡ります。フランスではパリ第6大学、第11大学などが有名ですが、エクス・マルセイユ大学も上位校に位置します。私の通うキャンパスはマルセイユ市内から少し北に離れており、自然が多く研究に集中できるとてもいい場所でした。ここには、Hrancois先生を所長とする大きな研究所があり、若手の研究者がたくさん集まり活気にあふれています。週に一度セミナーを開いており、セミナー前には、コーヒーや甘いお菓子をつまみながら最近の研究話などを話す時間があります。フランスではごく普通に見られる光景です。

マルセイユは地中海に面していることから、魚介系の食べ物が豊富です。ブイヤベースなど有名な郷土料理が多数あります。他にも、オリーブ油で作られるマルセイユ石鹸などがあり、観光客の定番のお土産となっています。天気のいい休日には、ルミニー(Luminy)などの景色のいい海岸縁にサンドイッチを持って行き、家族や友達と一緒に日光浴をするのが現地の人々の過ごし方のようです。フランスの南はヨーロッパでもリゾート地として有名な場所でモンペリエ、ニース、カンヌなど富裕層が集まる場所にマルセイユから電車で簡単に行くことができます。また、サッカーの名門オリンピック・マルセイユがすぐ近くにあり、シーズンには多くの観戦者が訪れます。2018年現在では、日本人選手の酒井宏樹選手が活躍しています。治安に関しては、昼は問題ありませんが、夜はよくありません。現地の人の話によると、アフリカ系やアラブ系の移民が多く集まっていることで考えや生活水準が異なることが一つの原因のようです。もしマルセイユに行く予定がある方は、夜出歩くなら複数人で出かけることをお勧めします。また、パリと比べるとマルセイユでは英語があまり通じません。苦い思い出としては、マルセイユでお年寄りが経営しているお店でリュックを購入しようと英語で話かけたら、「Speak French !」と言われました。ただし、これは稀なケースでマルセイユでも多くの方が、特に若者は英語を話します。私が道に迷ったり、チケットの買い方で困っていたときに、親切に助けて下さったことを付け加えておきます。当然ですが英語がどこでも通じるわけではなく、現地の言葉で喋るのが礼儀であることを改めて学びました。

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(左:エクス・マルセイユ大学の数学研究所、右:マルセイユの港)

 

EHESSとパリ第11大学

 

今回の渡航では、マルセイユが主な訪問先でしたが、ちょうどこの時期に私の共同研究者である二宮広和先生がパリにあるEHESSのHenri Berestycki先生のところに訪問し、また、別件で小川知之先生がパリ第11大学のDanielle Hilhorst先生のところに訪問されていることを知りました。先生方のご協力もあり、当初の計画を少し変更してEHESSとパリ第11大学に短期間ですがマルセイユ滞在の前後に訪問させて頂くことになりました。そこの話についても少し触れたいと思います。

まず、EHESSはパリの中心付近にあります。二宮先生が向こうに掛け合って下さったこともありEHESSで講演する機会を頂き、EHESSのPh.D.や助教らと研究の議論をすることが出来ました。幸運にも若手の研究者と共同研究をする機会にも恵まれ、とても有意義な滞在でした。パリにはエッフェル塔や凱旋門、ルーヴル美術館など見るものがたくさんあるので、時間のある時は散歩に出かけました。また、EHESSからあまり遠くない場所にモンパルナス墓地があり、そこにアンリ・ポアンカレ家の墓があります。せっかくなので、頭が少しでもよくならないかと淡い思いを抱きながら、お参りしました。

一方、パリ第11大学は、パリ中心部からRERに乗って約50分のところにあるOrsay-Ville駅周辺にあります。言わずと知れたフィールズ賞受賞者4名、ノーベル賞受賞者2名を輩出するフランスではトップクラスの大学になります。世界各地から留学生が集まっており、アジアでは中国、また植民地の関係からベトナムから多数の留学生が来ていました。日本の留学生は相対的に見てごくわずかでした。私は、以前からDanielle Hilhorst 先生にMullins不安定性に関していくつか聞いてみたいことがあったので、これを機に訪問させて頂きました。実は、私が明治大学先端数理科学インスティテュート(MIMS)のPDをしているときに、Danielle先生とは既に何度かお会いしてました。当時、MIMSでは三村昌泰先生を筆頭に日仏韓台の国際研究ネットワーク(GDRI)協定が行われ、その関係でよく日本に来られていたのを覚えています。急なお願いにも関わらず講演機会をくださり、学生とも研究議論をさせて下さいました。短かったですが、とても充実した滞在でした。

 

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(左: パリ第11大学の廊下にある柱、右:ポアンカレ家の墓 )

フランスと数学

 

私が今回フランスで研究をしてみたかったもう一つの理由は、フランスの人は「数学」というものをどのように捉えているのか、肌で感じてみたかったというのがあります。フランスは言わずと知れた数学大国であり、ガロア、ポアンカレ、ラグランジュやフーリエなど多くのスーパースターを世に送り出しています。偉大な数学者を生み出す環境や慣習に興味がありました。私が感じた不思議な体験の一つは、数式がふとした瞬間に目の前に現れる、というものでした。例えば、パリ北駅の構内で電車を待ちながら、ふと顔を壁に向けるとそこには数式が描かれています。また、街中のポスターにも偏微分方程式の描かれたポスターなどがありました。建物などもなるべくスタイリッシュなものを選択しているように感じ、美しさなどのこだわりが強く、まるで、そのためなら多少の利便性が悪くても構わないという印象を受けました。加えて、フランス人は洞察力がするどい印象も受けました。不思議な体験としては、私が日本人であるということが、どうやらフランス人にはすぐにわかっているようでした。私は、昨年度、イギリスのオックスフォードに半年滞在しており、そのときは中国人とよく間違えられました。海外で見かける多くのアジア人は中国人が圧倒的に多いので、イギリス人の反応はごく自然に思われます。フランス人の洞察力に驚きました。

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(パロ北駅の構内にある数式)

 

謝辞

 

最後に、まずこの滞在機会と資金援助をして下さった岡山大学異分野基礎科学研究所の久保園芳博所長と谷口雅治先生に心から感謝を申し上げます。また、多忙の中、急なお願いにも関わらず私を受け入れて下さった、Hrancois Hamel先生、Danielle Hilhorst先生、Henri Berestycki先生に感謝申し上げます。加えて、現地で研究や紹介等のサポートをして下さった小川知之先生、二宮広和先生、日常生活のサポートをしてくれたYan-Yu Chen氏, Guo Hongjun氏、Weiwei Ding氏に感謝申し上げます。最後に、本滞在記の執筆の機会を与えて下さった応用数理学会担当編集委員の宮路智行先生に感謝を述べて終わりにさせて頂きたいと思います。

 



ものべ はるのり
岡山大学異分野基礎科学研究所
[Article: D1803A]
(Published Date: 2018/06/13)