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ラボラトリーズ

海上技術安全研究所のインターンシップ体験談

中西 徹



私は、2018年10月10日から2019年1月18日の約3か月の間、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所の海上技術安全研究所でインターンシップを経験させていただきました。ここでは、その体験談を書きたいと思います。

まず、海上技術安全研究所は国の研究機関であり、①海上交通の安全及び効率の向上のための技術や、②海洋資源及び海洋空間の有効利用のための技術、③海洋環境保全のための技術に関する研究等を行っています。 海上技術安全研究所では、2週間程度で研究職場を体験するインターンシップのほか、博士課程および修士課程の学生を対象とした長期間(数ヶ月~1年)の課題別インターンシップ制度が用意されています。

私は、このインターンシップの存在を知り、公的な研究所で働いてみたいと思っていたことから応募しました。 そして、船舶工学の専門家と共同研究する貴重な経験を得られました。 インターンシップの課題は、複数用意されており、その中から自分の興味や関心で選択することができます。 私は偏微分方程式の数値解析を専門に研究をしているため、その研究に関連がある「最先端の非線形CAEを用いた大規模並列シミュレーション流体構造連成解析/衝突・座礁解析」をインターンシップの課題として選択しました。 インターンシップの出勤日については、週に2~3日、月に5~10日というように受け入れ部署と相談して柔軟に設定ができます。私の場合は、ソフトウェアの習得の時間を考慮し、月に10日の出勤を選択しました。私は、最先端の数値解析手法という課題を選択し、流体構造連成を用いた水面衝撃解析を実施することとなりました。

流体構造連成解析については、応用数学の中でも昨今盛んに研究されている研究内容でありますが、私は勉強したことがなかったので、今回のインターシップで知識を深めることができ、知見が広がりました。例えば、構造が破壊を生ずるような弾塑性計算の場合は、数値計算が発散しやすく、安定的に計算するのが難しい分野なのだと知りました。 また、数値計算の知識だけでなく、工学的なものの見方も知ることができました。 例えば、私の専攻している数値解析では、近似スキームを作り厳密解との誤差評価などを数学的に示すこと目標にしています。今回のインターンシップでは、入力データを変えたときの影響を考察し、国内外の規則(ルール)を満足しながら評価関数(重量)を最小化するパラメーターを求めるなど、普段の研究との違いを感じました。

ここでは、船舶工学の研究における数値計算の重要性について述べたいと思います。 船舶に作用する荷重や応力などを実験で求めるためには、多額の費用がかかります。縮小したモデルを考えたとしても、縮尺比影響や海水の粘性等相似則も考慮しなければならず、実験が難しい上に多くの手間とコストが生じます。そのため、近年の数値計算技術の発展に伴い、数値シミュレーションを用いた数値実験が広く利用されるようになっています。

次に私のインターンシップ期間中の一日の流れを書きたいと思います。まず、朝は8時ごろに起き、そこから身支度をします。海上技術安全研究所までは、バス→電車(中央線)→バスと乗り継ぎおよそ1時間かけて通勤しました。研究所の最寄りの駅はJR中央線の三鷹駅です。東大の三鷹寮からは徒歩で通える距離です。研究所についた後は、インターンシップの担当者の研究室に移動し、自分のデスク(専用デスクを与えられる)で作業を行うという形になります。 デスクについたら、メールを確認し、本日やるべきことを確認します。主に、インターンシップの担当者からの指示や、ソフトウェアのサポートからの返信をチェックします。 CAE用のソフトウェアを立ち上げ、ExcelやWordに途中経過を追記しながら、作業を行います。 12時から13時までは昼休憩があります。研究所内の食堂又は隣の杏林大学の食堂があり、そこで昼食をとることができます。また、弁当を持っている場合は小会議室で昼食をとることもできました。さらに図書館もあり、読書やWi-Fiを使うことも可能でした。図書館の本は、船舶関係の雑誌はもちろん、デジタル関連の雑誌や一部数学系の雑誌も置いてありました。基礎科学として数学の重要性が高まっているように感じました。

昼の休憩後は、研究室に戻り作業を再開します。作業で分からないことがあった場合は、担当者に聞く場合もありますが、ソフトウェア関係でエラーが出た場合には、担当の研究員の方に聞いて、それでもわからない場合にはソフトウェアのサポートに問い合わせることが多かったです。問い合わせるときには、最初は専門用語が分からず、意思疎通が難しかったですが、インターンシップ期間中にソフトウェアの研修に参加させていただき、円滑に問い合わせることができ、自身の成長を感じることができました。研究室の雰囲気・環境は、落ち着いた雰囲気でとても居心地がよく、朝は鳥のさえずりが聞こえ、研究員の方は親切に接してくださいました。特に、昼休みの時間は、研究員の方々と親交を深める良い機会となりました。研究者生活や進路相談にも乗っていただきました。

作業は18時ごろに終わりますが、帰宅する際には作業報告を行います。今日行った作業をまとめ、何をどこまで行ったのかを自分で把握します。そして、次回以降に何をしなければならないのかを担当の研究員の方と共有します。作業は基本的に研究所内でのみ行うので、帰宅してからは自身の研究の時間にすることもできるため、インターンシップと学校の授業やセミナーとの両立もできました。 さらに、学会等で出勤できない日は別の日に振り替えることもできるのが大変助かりました。 インターンシップの最後には、今まで共同研究してきた内容を同じ系の研究者の方や、系長、所長、理事長などの幹部の方々の前で発表させていただきました。 発表時間は30分の時間が足りないと感じるほど、発表内容が多かったのですが、無事に発表を終えることができたと思います。

インターンシップを振り返ると、最先端の数値シミュレーションだったので、ソフトウェアの扱い方やエラー処理で大変だったことが多かったですが、初めて解析に成功したときは非常にうれしかったです。また、その時にご教示していただいたデータの管理方法は自身の研究に活かせると思い、数値実験を行うときの参考にしたいと思います。今までは、偏微分方程式の物理的な背景にはあまり詳しくなかったのですが、今回のインターンシップを経て、背景の部分にも興味・関心を持ち、新たな知見を得ることができました。流体構造連成解析の数値計算手法については、数学的にも未知な部分も多いところなので、インターンシップ後にも調査してみようと思いました。 研究所の方と話す機会があり、その中で気付いたことは、工学の立場から最近のトレンドであるAI(人工知能)の研究が数学に多く求められているということです。 これからの時代は、今まで人間がしてきた仕事のほとんどがAIに取って代わるといわれていることから、船舶工学の研究者も高精度なAIを研究開発しているのだと思いました。

最後に、インターンシップを受け入れて頂いた海上技術安全研究所の皆様、とくにご指導、共同研究して頂いた山田安平様には、大変感謝しており、ここに感謝の意を表したいと思います。



なかにし とおる
東京大学大学院数理科学研究科 博士課程1年
[Article: D1903B]
(Published Date: 2019/07/23)