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学術会合報告

IMI-La Trobe Joint Conference ''Geometric Numerical Integration and its Applications'' 開催記

田上 大助



2016年12月5日から7日の3日間, AustraliaはVictoria州の州都であるMelbourne市の郊外, Bundoora市にあるLa Trobe大学The Institute of Advanced Studyにて, 幾何学的数値解法 (geometric numerical integration) に関する研究集会IMI-La Trobe Joint Conference ''Geometric Numerical Integration and its Applications'' が開催された.

本研究集会が開催へ向けて動き出したのは同年2月, 南半球の夏も終わりに近付いた穏やかな午後のLa Trobe大学構内にまで遡る. ある研究集会参加を終えてLa Trobe大学を訪問していた筆者は, La Trobe大学のQuispel先生と九州大学の梶原先生が午後の休憩で大学内のカフェへ向かう際, お二人の傍らにおり声をかけていただいた.

Quispel先生と梶原先生がお二人のご専門である可積分系に関する話題でひとしきり盛り上がった後, Quispel先生と初めて顔を合わせた筆者は自己紹介をしつつ話に加わった. 筆者からは自身の専門である流れ問題に対する有限要素法や粒子法の数値解析に触れながら, 近年は (可積分系との関連性は皆様もご存知であろう) 幾何学的数値解法の重要性を様々な機会に感じていること, 日本に顕著な成果を上げている研究グループがあること, そして自身は素人だが興味を持っており少し前から何か企画出来ないか頭に思い描いていたことなどを話題にした.

すると, 可積分系だけでなく幾何学的数値解法に関しても多くの業績があり, かつ日本の研究グループとも交流があるQuispel先生が, 筆者の拙い話に興味を示してくださった. そこから話は一気に進展し, 翌日にはQuispel先生の研究室で幾何学的数値解法を主題とする研究集会開催の具体的な検討を行っていた.

研究アイデアや共同研究が思いもよらぬ形で生まれた経験をされている方も多いであろう. 本研究集会も (少し前から企画を思い描いていたという伏線はあるものの) 筆者がQuispel先生と梶原先生の珈琲休憩に声をかけていただいた, という偶然から生まれたのであった.

その後 ''IMI-La Trobe Joint Conference'' の名前を冠していることが示す通り, La Trobe大学に所属するQuispel, Bader, McLarenの3氏, そして九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所 (IMI) に所属する筆者, 合計4人からなる組織委員が立ち上がり九州大学IMIとLa Trobe大学の共同研究集会として開催準備が進行していった.

本研究集会ではQuispel先生の尽力により, 幾何学的数値解法の研究を国際的に牽引する複数のグループから10名の方に招待講演をいただくことができた: NorwayからはCelledoni (Norwegian University of Science and Technology), Munthe-Kaas (University of Bergen), Owren (Norwegian University of Science and Technology); EnglandからはIserles (University of Cambridge); その他ヨーロッパからはFrank (Utrecht University), Grimm (Karlsruhe Institute of Technology); オセアニアからはButcher (University of Auckland), McLachlan (Massey University); そして日本からは三井 (名古屋大学), 宮武 (名古屋大学) の方々である. またこの他に10件の一般講演も行われた.

講演では, B級数に基づくある高次シンプレクティック法の導出, Størmer–Cowell法の新しい構成的な導出, 時間離散多体問題の平衡解が成す軌道の保存性に関する考察, 非線形問題適用時の高速演算を可能にするある離散変分法の提案, 離散変分法のH1-Galerkin法への適用と不連続Galerkin法や高次スキームへの拡張, 画像処理に現れるある勾配流方程式に対する離散勾配法を用いた近似に基づくGPUを用いた数値計算, などの題材が取り上げられた.

基礎的ではあるが重要な話題の続報や対象とする問題の拡充から, 最先端の計算機資源を用いた応用まで, 本研究集会で題材となった様々な立場の話題から, 幾何学的数値解法の深化と発展が感じられた.

参加者数は24名と, 研究集会の規模としては小さい集まりであった. しかし幾何学的数値解法に焦点を絞っていたこと, 当該分野を国際的に牽引する複数の研究グループから参加者が揃ったこと, 日頃から議論を戦わせている間柄の参加者も多かったことなどから, 少数精鋭のような雰囲気で密度の濃い議論が交わされ, 参加者から研究集会に対して肯定的な感想をいただけたのは組織委員の一人として筆者の喜びであった.

集会中日には, 地元La Trobe大学の方々によって遠足が企画された. Melbourneの水甕の一つであるSugarloaf貯水池のトレッキングでは野生のカンガルーに遭遇し, Melbourne近郊にあるYarra Valleyではワイナリーを見学し, 別のワイナリーに移動した晩餐会では美味しいオーストラリアワインと料理に舌鼓を打った. La Trobe大学の方々の歓待によって熱い討論で疲れた頭と体に良い栄養補給をしたことも, 研究集会に対する良い評価に繋がった理由であろう.

最後に, 本研究集会開催のきっかけを与えていただいただけでなく, 招待講演者の招聘など学術企画の充実や素晴らしい栄養補給となった遠足企画での歓待など, あらゆる場面でLa Trobe大学のQuispel先生には大変にお世話になった. この場を借りて厚く御礼申し上げたい.



たがみ だいすけ
九州大学
[Article: G1702D]
(Published Date: 2018/01/26)