石井 真史
はじめに
平成28年7月25日(月)、「MI^2(エムアイスクエア、情報統合型物質・材料開発)と数学連携による新展開 チュートリアル」を国立研究開発法人 科学技術振興機構 東京本部別館1階ホールにて開催した。
http://coop-math.ism.ac.jp/event/2016T01
本チュートリアルは、平成27年度に開催した第一回
http://www.nims.go.jp/MII-I/event/h6g4rf00000001i2.html
の続編である。第一回目と同様、「文部科学省委託事業 数学協働プログラム(受託機関:統計数理研究所)」に基づいて実施した。第一回チュートリアルでは物質・材料科学と数学の融合・協働の礎となる相互理解を深めるために、統計数理研究所から樋口和之所長・福水建次教授・吉田亮准教授を講師として招き、数学分野の研究者による物質・材料分野の研究者へのセミナーという形態を採った。講演後のアンケートの結果は、両者の融合・協働が、材料の新たな研究法の開拓につながる可能性を十分に感じさせ、同時に具体的な連携には、より一層の相互理解が必要であることを示した。そのため平成28年度の第二回からは、「超基礎からの」をキーワードにする新シリーズを開始した。「超基礎からの」には、取り上げる手法はいずれも最先端的な手法でありながら、できるだけ数式展開による難解な説明は避けつつ、一方で馴染のある従来の統計手法を出発点として手法の理解を促す狙いが込められている。本シリーズは、第一回と異なり、毎回一つのテーマを選び、数学の知識が物質・材料研究へシームレスにつながるように、基本編と応用編で構成した。本稿では、その最初の試み「超基礎からのLASSO」チュートリアルセミナーについて報告する。
「超基礎からのLASSO」チュートリアルセミナー
JSTイノベーションハブ構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI^2I)」 http://jom.jsiam.org/13883
では、MI^2の普及を後押しするため、人材育成にも力を入れている。その一環である本チュートリアルでは、受講対象として企業において開発現場の核である40歳前後の研究マネージャークラスを想定している。実際、「超基礎からのLASSO」の受講者は40~50代が多く、平均すると40代後半であった(図1)。受講者の業種は化学、電気機器、自動車関係で過半数を占め(図2)、おそらくMI^2による材料開発に期待を寄せている業種と一致していると思われる。そのあとに続くITは情報分野からの材料開発へのアプローチとも考えられる。
図1受講者の年齢分布
図2受講者の業種
講師は、前半の基本編は池田思朗 統計数理研究所教授、後半の応用編はDAM Hieu Chi 北陸先端科学技術大学院大学准教授にお願いした。池田教授からは、多次元変数の多くが0である、いわゆるスパース性を用いた回帰であるLASSOが、広い技術分野で活用されている様子を、画像をふんだんに使ったスライドで講義頂いた。応用例と共に数学的基礎についても掘り下げられ、LASSOの具体的な解法が示された。DAM准教授からは、LASSOによる回帰の材料科学への応用として、結晶形成エネルギー、バンドギャップ、融点など、様々な物性予測と記述解析の具体例が提示され、現場に近い受講者の注目を集めた。(図3)
図3 「超基礎からのLASSO」基本編と応用編の位置づけ
本イベントの満足度(アンケートで「とても満足」または「満足」の回答の割合)は72.4%であり、各受講者が感じた難易度は様々であったものの、全体的には企画の趣旨は受け入れられたと考えている。
本チュートリアルセミナーの様子は、前述の数学協働プログラムからの資金援助で撮影し、教材用のDVDとしてまとめられた。このDVDは、使用したスライドを適宜講義の映像に差し込むなど、現場での受講とは異なる分かり易さを追求し、質の高いものに仕上がっている。講義の全スライドもPDFファイルで収録した本DVDは、教育目的での利用に限り、申請書・誓約書の提出があれば、無償で提供している。手続きの詳細は
http://www.nims.go.jp/MII-I/event/tutorial2016_2.html
を参照いただきたい。本稿で述べきれない、充実した内容を実感いただけると確信している。
MI^2Iでは、情報やデータの共有を理念とするコンソーシアムを作り、MI^2の社会実装を進めている。この理念に賛同して集まったコンソーシアム会員には、作成したDVDを機関ごとに一枚ずつ無償で配布した。また、未来の計算物質科学分野をリードする若手研究者や学生を育成している、計算物質科学人材育成コンソーシアム(Professional development Consortium for Computational Materials Scientists : PCoMS)
http://pcoms.imr.tohoku.ac.jp/
は、本企画の趣旨との一致点が多いことから、メンバー全員にもDVDを無償で提供した。
「超基礎からの」をキーワードとするシリーズの以降の回は、本誌、日本応用数理学会JSIAM Online Magazineで報告する予定である。全3回の開催により企画側が得た手応えと、29年度への展望が湧出してくる過程を紹介したいと思っている。
いしい まさし
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 情報統合型物質・材料研究拠点
[Article: G1703A]
(Published Date: 2017/07/21)