石井 真史
はじめに
平成28年10月27日(木)、「MI^2(エムアイスクエア、情報統合型物質・材料開発)と数学連携による新展開 チュートリアル」を全日通労働組合 8F大会議室Aにて開催した。
http://coop-math.ism.ac.jp/event/2016T01
本チュートリアルは、平成27年度に開催した第一回
http://www.nims.go.jp/MII-I/event/h6g4rf00000001i2.html
および、平成28年度の7月25日(月)JST東京本部別館1階ホールにて開催した第二回
http://www.nims.go.jp/MII-I/event/tutorial2016_2.html
の続編である。これまでと同様、「文部科学省委託事業 数学協働プログラム(受託機関:統計数理研究所)」に基づいて実施した。平成28年度の第二回からは「超基礎からの」をキーワードとし、MI^2手法を毎回一つ取り上げ、統計的手法の解説から始まり、実応用例の紹介で終わる、各回完結の講義をシリーズ化することを目論んでいる。今回はベイズ最適化を取り上げ、好評を得たので、その成果を報告する。
「超基礎からのベイズ最適化」チュートリアルセミナー
「超基礎からの」シリーズでは、一回の講義を基本編(前半)と応用編(後半)に分け、数学と材料科学の橋渡しをしている。今回は、基本編と応用編の両方の講師を津田宏治 東京大学教授にお願いすることで、セミナー全体に一貫性を持たせた。基本編では①「データ科学プロジェクトの進め方」でクライアントとの対話からプロジェクトが仕上がってゆく過程、②「ベイズ最適化の基礎」で手法の数学的知識から公開ソフトCOMBOの紹介までの一連の基盤的側面が示された。後半の応用編では③「COMBOのプログラム構成」に加え、④「ベイズ最適化の応用」としてバイメタルのdバンドセンター、熱伝導、融点の高速・高効率な予測などの実用的側面が紹介された。ここでCOMBO(COMmon Bayesian Optimization Python Library)とは津田教授により開発された、ベイズ最適化のための汎用Pythonライブラリである。
https://github.com/tsudalab/combo
ランダムデータの高速回帰、ハイパーパラメータの初期化と更新を自動で行うことができる。
JSTイノベーションハブ構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI^2I)」 http://jom.jsiam.org/13883
では、MI^2の技術普及にも力を入れている。その一環である本チュートリアルは、主に企業において開発現場を牽引する40歳前後の研究者・技術者を対象にしている。受講者が様々な期待を抱くなかで、全員が満足する学術講義の実施は難しい。それにもかかわらず、前回の「超基礎からのLASSO」では、満足度(アンケートにおける「とても満足」または「満足」の回答の割合)が72.4%に達した。今回の「超基礎からのベイズ最適化」は、満足度は偶然にもLASSOの時とほぼ同じ72.0%であった。しかし、この結果は両講義が全く同評価であることを示しているわけではない。このことは、例えば以下のように、相対的に低評価である「普通」と答えた層の傾向を調べることで認識できる。
図1は、「普通」と答えた受講者の割合を、世代ごとに示す。図1(a)が第二回(LASSO)、1(b)が第三回(ベイズ最適化)の結果である。明らかに第二回では年代と共に「普通」の評価は減少し、逆に第三回では年代と共に増加がみられる。すなわち第二回はシニア層で満足度が高く、第三回は若手層で満足度が高い傾向を明確に示している。受講者の業種や年齢層は第二回と第三回でほとんど変わらない。実際、第三回受講者の内、半分(50.9%)は第二回の受講者である。それにもかかわらず、図1で見られる差異は、今回は応用ツールであるCOMBOに関する具体的な話が中心であった分、実働に近い若手の満足度が高くなったことも要因として予想される。他に要因は様々考えられるが、いずれにしても図1から学ぶべきことは、シリーズ化における、受講者の広い専門分野や年齢層を考慮した様々な講義のアレンジの重要性であろう。
図1「普通」と答えた人の年代別の割合。(a)第二回と(b)第三回
本チュートリアルセミナーは、前述の数学協働プログラムから資金援助で撮影し、教材用のDVDとしてまとめた。このDVDは、使用したスライドを適宜講義の映像に差し込むなど、現場での受講とは異なる分かり易さを追求し、質の高いものに仕上がっている。講義の全スライドもPDFファイルで収録した本DVDは、教育目的での利⽤に限り、申請書・誓約書の提出があれば、無償で提供している。手続きの詳細は
http://www.nims.go.jp/MII-I/event/tutorial2016_3.html
を参照いただきたい。
「超基礎からの」をキーワードとするシリーズの最終回(平成29年1月)は、本誌、日本応用数理学会JSIAM Online Magazineで報告する予定である。そこでは全3回を総括し、その上に立った平成29年度の計画を紹介したいと思っている。
いしい まさし
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 材料データプラットフォームセンター
[Article: G1703B]
(Published Date: 2017/07/21)