土屋 拓也
2017年12月9日から10日にかけて福岡県北九州市小倉の西日本総合展示場におきまして、精度保証付き数値計算の実問題への応用研究集会(NVR2017)が開催されました。初日、二日目と小雨の降る肌寒い中、発表者16名を含む20名以上の参加者がありました。講演の内容は精度保証のツールの紹介、精度保証の基礎的な研究発表、応用に向けた数値計算の発表など、精度保証の研究の発展を期待できる興味深いものばかりでした。講演発表者には修士や博士などの学生も含まれていましたが、他の先生方と遜色ない研究内容と発表姿勢に驚きを覚え、今後の研究成果に非常に期待のできるものでした。また、初日の講演後には会場近くで懇親会が開かれ、ほとんどの研究会参加者が参加されました。懇親会でも若手と先生方の忌憚のない話し合いが行われ、親睦を深めることができていたと感じました。そのせいか、初日よりも二日目のほうが講演における議論がより活発に行われていたと感じました。
個人的に興味深かった講演内容は、柏木先生の「kvライブラリにおける区間演算の実装について」と関根先生の「C++11によるポリシーを導入した数値線形代数クラスの作成とその応用」、高安先生の「非線形熱方程式の複素時間における解の挙動と精度保証付き数値計算」でした。柏木先生の講演では、kvライブラリの機能を説明され、複素数への適用やdouble-double型への変換、またヘッダファイルのみで構築していることなど、今後の幅広い応用が期待できると考えています。関根先生の講演は複数のライブラリの橋渡しを行うツールの紹介で、現状の複数のライブラリを簡潔に利用できかつ高精度な計算を実現可能とすることから、その適用範囲の広さが伺えました。高安先生は、非線形Schrödinger方程式やGinzburg-Landau方程式など偏微分方程式への精度保証を用いた応用例への可能性を紹介されました。これらの方程式は実関数論分野ですでに様々な性質が調べられており、またもともと物理的な現象を表現する方程式なので、本研究集会の目的に最も合った内容ではないかと考えています。
私の見解から、精度保証の研究は実装の大変さと解析を行うための労力が多く、実際に適用を試みることの困難さがあること、また実装するための手順が良くわからないのが現状ではないかと思います。荻田先生が言われていたように、実問題の実装例をポスト「京」稼働後に開発、構築していたのでは間に合わないということから、本研究会の今後として、一般に数値計算を行っている数値計算屋以外の方々に実装可能性と手法のプロセス、またいくつかの大規模な実用例の成果が稼働前に得られれば、ポスト「京」運用への新たな価値が付加されることとなり大きな成功ではないかと思っています。今後の本研究会の更なるご発展を心よりお祈り申し上げます。
つちや たくや
早稲田大学
[Article: G1801B]
(Published Date: 2018/03/09)