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学術会合報告

研究集会「IPA Math 2018」開催報告

宮路 智行



2018年12月14日~15日に明治大学駿河台キャンパスアカデミーコモンにて,研究集会「Interaction between Pure and Applied Mathematics 2018 (IPA Math 2018)」を開催しました.本研究集会はIPA Math 2016IPA Math 2017に続くシリーズ三回目です.今回は20名の参加者がありました.

講演内容

IPA Mathでは5名の講演者に一時間ずつ講演していただいています.質疑応答・議論による相互交流を見込み,講演の間には長めの休憩をとっています.初日の午後に3件,二日目の午前中に2件の講演でプログラムを編成しています.以下,IPA Math 2018の講演内容をご紹介します.研究集会Webページに掲載している講演者による講演概要も合わせてご覧ください.

最初の講演は数論幾何がご専門の石塚裕大氏(京都大学)による「微分方程式系の単独化とGroebner基底」でした.「ある微分方程式系について各変数が単独で満たす微分方程式を具体的に求めよ」という問いから始まり,命題「N変数代数的正規微分方程式系について各変数にN階以下の単独化方程式が存在し,計算可能」の証明が続きました.その単独化方程式をexplicitに求める計算でGroebner基底が威力を発揮します.Rössler方程式による具体例を通して,理解しやすくご説明いただきました.

二番目の講演は,いまパーシステントホモロジー研究で中心的役割を果たしている大林一平氏(理化学研究所・東北大学,現所属:理化学研究所・京都大学)に「パーシステントホモロジーの理論と応用」についてお話しいただきました. パーシステントホモロジーの構造定理・安定性定理といった基礎理論から,高分子材料や金属ガラスへの応用,さらには大林氏らが開発しているソフトウェアHomCloudのデモまで,盛りだくさんの内容でした.

林邦好氏(聖路加国際大学)には過去三回のIPA Mathで毎回ご講演いただいています.林氏は数理統計の立場から医療の臨床研究に貢献されています.これまでのご講演では,臨床研究における統計科学の役割に焦点をあてたお話がありました.今回は「正則化法に基づく高次元統計量に対する統計的感度分析について」という題目でLASSOと統計的感度分析法の理論とシミュレーションをご紹介いただきました.

2日目(12月15日)最初の講演は佐藤寛之氏(京都大学)に「リーマン多様体上の幾何学的な最適化手法とその応用」についてお話いただきました.制約付き最適化問題を従来手法で解く上での問題点の指摘から,問題をリーマン多様体上の制約なし最適化問題とみなし,ユークリッド空間上での制約なし最適化問題の解法の拡張として求解アルゴリズムを導出する動機づけがなされました.多様体上では勾配と探索方向とが異なる空間に属するため単純に足し合わせることができないという困難を解決するvector transportの解説がありました.後半はリーマン多様体上の確率的分散縮小勾配法とその応用として低ランク行列補完問題が紹介されました.

本研究集会を締めくくるのは,計算位相幾何学がご専門の森口昌樹氏(明治大学,現所属:中央大学)による講演「離散曲面の骨格線とその計算」でした.形状の幾何的・位相的情報を簡潔に表現する骨格線の位相的な計算手法であるReebグラフについて,計算における困難や最適な計算アルゴリズムについての最近のご研究をご紹介いただきました.

IPA Mathについて

本研究集会の開催案内では開催趣旨を以下のようにご案内しました:

数学・数理科学の気鋭の研究者5人に関連する研究の講演をしていただく予定です.分野間の相互交流を主な目的とし,数学・数理科学の新たな潮流の形成を目指します. 様々な分野の方のご参加を歓迎します.

近年,数学・数理科学と諸科学の異分野融合研究がますます活発化し,そのための場所や機会の整備が進んできています.数学の様々な分野で応用研究が盛んに行われており,純粋と応用の垣根は目立たなくなりました.しかし「越境する数学」の船団が新たな航路を開拓する一方で,数学の各分野間には依然隔たりがあり,いわゆる応用数学の中でさえも,細分化された専門の間には壁があるように感じます.数学を応用するという段階を越えていくためのヒントは,数学の中の幅広い分野間の連携による相乗効果にあると考え,中野直人氏(京都大学)とともに2016年からIPA Mathを企画しています.タイトルの”Interaction between Pure and Applied”は,純粋数学と応用数学を対置するということではなく,応用数学に限らず,数学全体で分野の境を越えた交流を意図しています.

これまでの研究集会では下記の方々にご講演いただきました.この場を借りて,御礼申し上げます.
IPA Math 2017: 荒井 迅 氏(中部大学),田中 健一郎 氏(東京大学),林 邦好 氏(聖路加国際大学),宮部 賢志 氏(明治大学),矢崎 成俊 氏(明治大学)
IPA Math 2016:大縄 将史 氏(東京海洋大学),篠原 克寿 氏(一橋大学),曽我 幸平 氏(慶應義塾大学),林 邦好 氏(聖路加国際大学),廣瀬 三平 氏(芝浦工業大学)

次回予告

今年度,IPA Math 2019は文部科学省共同利用・共同研究拠点明治大学明治大学先端数理科学インスティテュート「現象数理学研究拠点」の共同研究集会(研究代表者:中野直人)として2019年12月6日(金)~7日(土)の日程で開催予定です.皆様のご参加を心よりお待ちしております.



みやじ ともゆき
京都大学数学教室
[Article: G1812A]
(Published Date: 2019/07/22)