井元 佑介
2018年11月14日(水)から 11月16日(金)にかけて,京都大学数理解析研究所420 号室にてRIMS共同研究 (公開型)「次世代の科学技術を支える数値解析学の基盤整備と応用展開」が開催されました.京都大学数理解析研究所における数値解析の研究集会は1969年の「科学計算基本ライブラリのアルゴリズムの研究会報告集」(代表者;高橋秀俊先生)から続く伝統のある研究集会です.50回目となる本研究集会は九州大学の田上大助先生が研究代表(著者は副代表)として開催され,22名の招待講演者を含む約70名の研究者が参加しました.
本研究集会では,「数値計算の理論基盤となる数値解析学の役割, 課題, および展望を参加者が共有した上で, 科学技術を支える数値計算の応用展開の深化と新しい可能性を探ること」(研究集会HPより抜粋)を目的としました.この目的のもと,数値計算手法の開発・評価,数理モデリング,精度保証付き数値計算,データ解析といった数値解析学の各分野を牽引する研究者,さらに,生命科学,社会科学,機械学習といった数値解析学の近年の応用研究に関連する研究者に講演を行っていただきました.
本研究集会の講演は18名の招待講演と4名特別招待講演で構成され,招待講演は30分,特別招待講演は60分の講演時間(いずれも質疑応答の時間を含む)で実施されました.通常の学会や研究集会よりも比較的に長い講演時間が設けられているものの,いずれの講演も活発な議論が交わされ,休憩時間まで延長して議論が行われていたことが印象的でした.
特別招待講演には次の4名に講演していただきました.
小林 照義 先生 (神戸大学)「社会・経済ネットワークの数理モデルとその解法」
二反田 篤史 先生 (東京大学)「残差ネットワークの種々の数理的側面について」
園田 翔 先生 (理化学研究所)「数値積分によるニューラルネットの学習」
中野 張 先生 (東京工業大学)「非線形放物型PDE に対するカーネル選点法の収束について」
特別招待講演では,金融ネットワークの数理モデル,深層学習やニューラルネットワークといった機械学習の諸問題,放射基底関数を用いたメッシュフリー法の数値解析といった普段耳にすることができないような研究内容で,数値解析学の新たな研究対象・応用となることが期待できる話題提供をしていただきました.特に印象的であった内容は,園田先生の講演(図1)で,浅いニューラルネットワークが関数の積分変換の離散化として捉えることができ,その極限である積分変換の下では解が大域的に存在することを紹介していただいたことでした.これはつまり,ニューラルネットワークで頻繁に問題となる複数の局所解の存在に対して,数値解析学で扱われる収束性といった数値計算手法の評価がニューラルネットワークの分野で応用できる可能性があるということです.著者は,機械学習が統計学の知見をもとに構築された学習理論であることから,数値解析学としての貢献は難しいと考えていましたが,本講演のおかげで数値解析学の新たな可能性を見出すことができました.
図1.園田先生(理化学研究所)の講演の様子
全22件の講演と参加者間の議論を通して,数値解析学の最新の研究や応用,さらには現在の問題点を参加者らが共有し,さらには数値解析学に関連する諸分野の研究発表を通して,数値解析学の新たな可能性を発見することができたことから,本研究集会の目的は達成できたと感じています.今後は,本研究集会をきっかけの一つとして数値解析学の発展や関連する新たな研究分野が創造されていくことを期待しています.次年度は東京大学の松尾宇泰先生に研究代表者をお引き受けいただき,引き続き本研究集会の伝統が受け継がれていく予定となっています.最後に,本研究集会の運営に携われたことに感謝いたしますとともに, 本研究集会の講演者や参加者,さらにご協力いただいた研究協力者や京都大学数理解析研究所に深く御礼を申し上げます.
いもと ゆうすけ
京都大学高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点
[Article: G1812D]
(Published Date: 2019/02/02)