JSIAM Online Magazine

学術会合報告

第48回数値解析シンポジウム 参加報告

相原 研輔



2019年6月10日~12日,福井駅前のシンボルとも言える複合施設「AOSSA」(アオッサと読む)にて,第48回数値解析シンポジウム(NAS2019)が開催された.このシンポジウムは,数値解析に関わる研究者や学生,企業の方々などが集い,討論を重ねる会である.第48回という回数からも分かるように,とても歴史ある会合のため,本記事をご覧の方々の中にはご存知の方も多いと思われる.今回は,令和に入って最初のシンポジウムという記念すべき回であるが,細田陽介先生(福井大学)が実行委員長としてご準備くださった.実は,筆者は今回から実行委員としても参画させていただいているのだが,本記事では主に一参加者の立場でここに報告をさせていただきたい.

会場であるAOSSAは,福井駅から徒歩1分の所にある.現在の福井駅周辺は,北陸新幹線が開通するための工事が着々と進んでいる様子であったが,各種観光地への鉄道やバスの案内などが充実しており,駅構内もとても綺麗に整備されていた.シンポジウム会場については,駅の東側を出ると,考えるよりも先に,すぐ右手の方向にAOSSAの大きなビルが視界に入るので,とても分かり易い立地であった.セッション会場は,6階の2つの研修室を繋げて,100名程度が収容できそうな部屋であった.今回は計47名の参加者がおり,その内約20名が学生で,比較的若い顔ぶれも多い印象を受けた.17件の口頭発表がシングルセッションで行われた他に,4件のポスター発表が行われた.

例年の数値解析シンポジウムの醍醐味の一つであるが,長年にわたり数値解析分野を牽引されてきた著名な先生方のご発表を聞けることは,学生や筆者のような若手研究者にとって大変刺激的である.紙面の都合上,一部のご発表のみを紹介させていただくと,「楕円曲線暗号解読で10時間を1秒に短縮する学習λ法」と題する後保範先生(インダストリスパコン推進センター),「Pantograph 方程式の線型安定性に関する考察」と題する三井斌友先生(名古屋大学名誉教授),「多変数多項式系の革新的消去法の探索」(当日に変更有)と題する佐々木建昭先生(筑波大学名誉教授)のご発表などは,既存の方法や固定観念に囚われてはいけないという,これからの若い研究者へのメッセージがこもったような印象深いご発表であった.特に,佐々木先生は,「foolhardy」という言葉とともに,「難題への挑戦!」と銘打って,新しい算法を切り拓くための方法論を,戦国武将の戦い方に準えてご発表されており,大変興味深かった.また,ご発表タイトルも,学生ではなかなか書けないであろう「革新的」といった言葉を用いられており,一つのご発表内で研究者としての多くの心構えをご教示頂いたような強い印象を受けた.

その他,若手研究者や学生による発表も興味深いものが多かった.こちらも一部のみ取り上げると,筆者自身が線形計算を専門としていることもあるが,「倍精度と単精度を用いた混合精度GMRES(m)法の性能評価」と題する深谷猛先生(北海道大学)のご発表に目を引かれた.最近注目されている画像処理や機械学習では,現在主流の倍精度演算ではなく,より低精度な演算でも意義のある結果が得られ,また計算機環境の変化も相まって,HPC分野では単精度や半精度などの低精度な演算を積極的に活用したアルゴリズムの研究が盛んに行われているとのこと.深谷先生のご発表は,線形反復法に関するものであったが,シンポジウム全体を通しても,質疑応答の時間に,低精度な演算に関する議論がしばしば登場していたのが印象に残っている.また,学生の中では,小川詔太郎さん(電気通信大学)による「温泉卵作成における卵の熱伝達係数について」という,明らかに目を引くタイトルのご発表が興味深かった.美味しい温泉卵を作る過程のモデル化を考察され,「卵黄は滑らかな触感を残し流れない程度の粘性を帯びる状態に凝固し,卵白は触れば崩れる程度に柔らかく固まった状態」(予稿集より一部引用)を目指した研究発表であった.質疑応答では,美味しさを数理的に定量化することの難しさについての議論もあったが,このようなユーモアに富んだ研究はとても面白いと思う.

ポスター発表については,以前に比べるとやや少なめの印象ではあったが,その分,各1~2分程度のフラッシュトークも行われ,セッション時間いっぱいまで,一つ一つのご発表についてじっくりと議論が行われていた様子である.ポスター発表および口頭発表について,シンポジウムのホームページ( http://www.na.scitec.kobe-u.ac.jp/nas2019/ )にプログラムが公開されているため,他にどのようなご発表があったかなど,ぜひこちらをご参照頂ければ幸いである.

さて最後に,セッション以外の部分で,例年との最大の違いについて書かせていただく.以下はやや実行委員としての目線と,筆者の独断と偏見とが混ざってはいるが,どうかご容赦願いたい.最大の違いとは,今回の宿泊は,一人ずつビジネスホテルの個室が用意されたという点である.これまでは,複数名が一室に宿泊する形式が慣例であったが,時代の変化とともに,そのメリット・デメリットが検討され,今回は実行委員会の計らいにより,試験的に個別の宿泊となった.実は,前年度の第47回も同実行委員長による開催で,福井県の「あわら温泉 まつや千千」にて慣例通りの合宿形式で実施されていた.そこで,2年連続で参加された一部の方々に伺ったところ,温泉宿での合宿の方が良いというご意見ももちろんあったが,今回のように個室の方が何かと有難いというご意見も多く聞かれた.筆者自身も,両方を体感した率直な感想としては「個室も良いかも!?」である.温泉宿でなかったことは少々残念ではあるけれども,参加者同士の懇親の機会そのものが失われたわけではない.会議中はもちろんのこと,今回は円卓による夕食会も催され,参加者同士が密に交流できる場が十分に確保されていたため,個人的には大変有意義な時間を過ごすことができたと感じている.これも,細田実行委員長をはじめ,福井大学の現地スタッフ,実行委員の先生方による多大なるご配慮のおかげだと思っている.

シンポジウムの終わりに,今回の会場名でもある“アオッサ”とは,福井弁で“逢いましょう”という意味だと細田実行委員長からお話があったが,ここで多くの方々にお逢いできたことをあらためて感慨深く思う.これも個人的なことではあるが,筆者が初めて参加したのは,2008年に秋田県で開催された第37回のシンポジウムである.あれから10年以上が経つが,当時に初めて出逢った研究者仲間(当時はお互いに学生)とは,今でも交流が続いているように,今回初めてお逢いした方々とも,今後も長くお付き合いができればと期待する.出会いの場としての数値解析シンポジウムの存在は,自身の中でも年々大きくなりつつあり,その点では宿泊などがどのような形式であっても,積極的に他の参加者と逢おうとする気持ちが一番大切なのではないか,と思う次第である.

さて,次回の第49回数値解析シンポジウムは,宮島信也先生(岩手大学)が実行委員長としてご準備くださることになりました.また数値解析シンポジウムで多くの方々とお逢いできることを楽しみにしつつ,筆を擱きたいと思います.

シンポジウム終了時の集合写真:撮影者は小澤伸也実行委員(福井大学)



あいはら けんすけ
東京都市大学 知識工学部 情報科学科
[Article: G1906A]
(Published Date: 2019/07/22)