JSIAM Online Magazine

学術会合報告

RIMS共同研究 (公開型)「諸科学分野を結ぶ基礎学問としての数値解析学」開催報告

田中 健一郎



2019年11月6日(水)から 11月8日(金)に,京都大学数理解析研究所420 号室でRIMS共同研究 (公開型)「諸科学分野を結ぶ基礎学問としての数値解析学」が開催されました.京都大学数理解析研究所における数値解析の研究集会は1969年の「科学計算基本ライブラリのアルゴリズムの研究会報告集」(代表者;高橋秀俊先生)から伝統的に例年続けられています.51回目となる本研究集会は東京大学の松尾宇泰先生が研究代表(著者は副代表)として開催され,約80名の研究者が参加しました.

 

本共同研究では「数値解析学最先端の話題を捕捉し情報共有すると同時に, 関連学問分野の最新・重要トピックについての講演も集め,分野間の学問的対話を促す」(研究集会HPより抜粋)ことが主旨でした.これは,現代の計算を前提とした科学時代に,数値計算・数値解析学が単なる「技術」にとどまらず,諸分野を結ぶ「基礎学問」の役割を担っていると考えられたためです.

 

このため,今回は数値解析の研究者だけではなく隣接学問領域の方もお呼びし,数値解析の新しい展開および研究者の交流を喚起することを意図しました.そして,今回はいくつかのテーマを設け,それらに沿い強い特色を持ったセッションを組みました.具体的には以下のとおりです.

 

・数値解析学の最近の話題

・大規模数値計算

・諸科学と数値解析の融合1(数値解析サイド)

・諸科学と数値解析の融合2(諸科学サイド)

・計算工学と数値解析

・現象の数理と数値解析1:現象とモデリング

・現象の数理と数値解析2:数理構造の抽出と計算

・[特別講演] 新たな数値的挑戦1

・[特別講演] 新たな数値的挑戦2

 

このようなセッション構成のもと,講演は25件の招待講演と2件の特別招待講演で構成され,招待講演は30分,特別招待講演は60分の講演時間(いずれも質疑応答の時間を含む)で実施されました.また,各セッションでは座長(セッション長)の方々に学問領域間の対話を促進するような司会進行をお願いいたしました.その結果,いずれの講演でも活発な議論が交わされ,それまで交流のなかった研究者間での交流が,講演・質疑応答時間のみならず休憩時間でも行われていた様子を実際に目にすることができました.

 

特別招待講演は2日目でした.この日は特に「データ駆動型科学」との対話をテーマにしており,特別招待講演もそのテーマに沿う形で,次の2件のご講演が行われました.

 

・河原 吉伸 先生(九州大学/理化学研究所)「力学系の作用素論的データ解析」

・櫻井 鉄也(筑波大学),今倉 暁(筑波大学),二村 保徳(筑波大学),叶 秀彩(筑波大学)の諸先生(ご講演は櫻井先生)「積分型固有値解法の開発とそのAIへの展開」

 

河原先生のご講演は,複雑な現象のダイナミクスをデータから同定する方法に関するものでした.より具体的には,現象の観測から得られるデータの背後に非線形力学系を想定し,その力学系に対してKoopman作用素という線形作用素による表現を考え,観測量がその作用素の固有対で展開できることを基にして,力学系を同定するという方法を解説していただきました.その同定方法においては再生核Hilbert空間(RKHS)における動的モード分解(DMD)が用いられるということです.筆者は,数値解析学において基本となる関数空間における関数近似手法との強い関連性を感じ,非常に興味深く拝聴しました.

 

櫻井先生のご講演は,行列の固有値問題に対する複素周回積分を用いた方法と,そのデータ解析への応用についてのものでした.周回積分の方法は,櫻井先生が長年取り組まれてきたSakurai-Sugiura法を基礎に置いたもので,並列計算との相性が良く,大規模問題でも高速な計算を可能にする方法です.櫻井先生は近年その方法のデータ解析への応用にも取り組まれており,特に医療・健康分野のデータ解析に取り組まれているということでした.数値解析の代表的な方法がまさに「データ駆動型科学」に応用されており,筆者は今後のさらなる発展の可能性を感じました.

 

以上の特別招待講演の他,25件の招待講演も興味深い内容でした.これらのご講演と参加者間の議論を通して,数値解析学と隣接学問領域の交流促進が図れたことから,本研究集会の目的は達成できたと感じています.今後は,本研究集会をきっかけの一つとしてこの流れがさらに促進され,数値解析学の発展や関連する新たな研究分野の創成に繋がることを期待しています.

 

次年度は東京大学の須田礼仁先生に研究代表者をお引き受けいただき,引き続き本研究集会の伝統が受け継がれていく予定となっています.最後に,本研究集会の運営に携われたことに感謝申し上げるとともに, 本研究集会の講演者や参加者,さらにご協力いただいた研究協力者や京都大学数理解析研究所に深く御礼を申し上げます.



たなか けんいちろう
東京大学
[Article: G1912A]
(Published Date: 2020/02/03)