中岡 慎治
「数学パワーが世界を変える2020」は、2020年2月1日〜2日、東京・秋葉原にて開催されました。同シンポジウムは、2018 年、2019 年にも開催されており、九州大学 IMI 「数学アドバンストイノベーションプラットフォーム(AIMaP)」、 JST CREST・さきがけ事業の共催です。例年、2日間にわたって開催されていますが、数学が産業界や社会で応用されていく近年の傾向を、最先端でお届けするシンポジウムといえます。たとえば、AIMap からは、数学分野と産業界の協働に関わるトピックを中心に、チュートリアルや公開シンポジウムの形で興味深い話題が提供されています。一方、JST さきがけ「数学協働」領域、JST CREST「数理モデリング」領域からは、それぞれの研究者、グループによる研究成果発表が行われています。また、毎年、著名人や官民学からの招待講演も交え、数学の活用事例や基礎的な研究について、多種多様な立場から講演を聴くことができます。シンポジウムでは、講演に加えてポスター発表も行われています。一般の方々も参加されるため、ポスター発表では、数学や数理科学の専門家から数学に興味のある一般の方々に至るまで、広く議論をすることができます。今回の記事は 2020 年度のシンポジウムですが、初日に JST さきがけ「数学協働」領域の3期生による成果発表、2日目には JST CREST「数理モデリング」領域からの研究発表、招待講演、さきがけ OB でもある1期生の研究発表や、AIMaP企画セッション「数学と異分野の協働で切り拓く新たなイノベーション」等々、盛りだくさんの内容でした。2018、2019 開催のシンポジウムいずれも、ポスター発表者として楽しく参加・聴講していましたが、 今年度は、 JST さきがけの3期生として講演を行いました。
「数学パワーが世界を変える」という標語の元、数学の魅力とポテンシャルを伝えるべく、JST さきがけ数学領域では例年成果発表時に企画を催しています。座談会であったりと、研究の魅力を伝えるため、毎年企画内容は議論の上、決定しています。研究内容はどうしても専門性が高く、内容が難しくなることもあるため、一般の方々にわかりやすく研究内容を伝えるにはどうすればよいか、企画段階で3期生のワーキンググループを中心に議論しました。今年度は、グラフィックレコーダーのプロの方に、各発表者の講演内容を「わかりやすい図やイラスト」にもらうことにしました。グラフィックレコーディングは、研究内容をイメージで可視化してくれます。はじめてグラフィックレコーディングを行ってもらいましたが、これがなかなかすごくて、私自身の研究もわかり易いイメージにまとめて下さいました。正直驚いたとともに、とても嬉しかったです。また、今年度の企画として「数学者と考える新しい社会のデザイン」というグループワークを開催しました。さきがけ研究者がトピック毎に分かれて、テーブルに座ります。参加申込みのあった一般の方々は、興味あるトピックのテーブルに座って、さきがけ研究者の研究テーマについて、自由に質問や議論をします。研究が興味をもってもらえるのか、少し不安なところもありましたが、テーブルについてくれた方々とお話を始めると徐々に盛り上がり、色々勇気づけられたりしました。
私個人的に、2日間を通じて実りが多かったのは、講演をした次の日のポスター発表です。類似の数理手法をそれぞれ別の対象 (私の場合は腸内細菌フローラのデータ) に適用している研究者と、議論を行うことができました。数学のもつ汎用性ならではの研究交流でした。今年度は、さきがけ研究の成果報告という形で研究は一度終了という形にはなりますが、また新しい課題や着想を得ることができました。また、一般の参加者から「私の研究内容について、HP 等で宣伝している情報はないのか?」というお問い合わせも頂きました。興味をもって下さっているようで、素朴に進捗状況を知りたいというご感想は、大変励みになりました。「数学パワーが世界を変える2020」は、シンポジウムであると同時に、さまざまな人達が交流する場であり、このような機会のありがたさを、改めて感じた日でもありました。
シンポジウムは毎年特色があります。この度、微力ながら企画の一部に参加させて頂いたので、その一端を垣間見ることができましたが、シンポジウムの企画や運営は、多くの研究者の参加や企画、スタッフの努力に支えられています。3年間のポスター発表、「数学パワーが世界を変える2020」では講演の機会を頂きましたが、研究成果を発信できるようになるまで、多くの方々に数多くのご指導やご支援を頂きました。この場をもって、感謝御礼を申し上げます。
なかおか しんじ
北海道大学
[Article: G2003B]
(Published Date: 2020/09/07)