相島 健助
2019年12月24日,東京大学本郷キャンパス工学部6号館において,日本応用数理学会三部会連携応用数理セミナーが開催されました.本セミナーは,日本応用数理学会の「行列・固有値問題の解法とその応用」,「科学技術計算と数値解析」,「計算の品質」の三部会が連携し,学部生・大学院生,企業の研究者・技術者を対象にしています.各部会の発表枠は2時間あり,当該分野の専門家をお招きして初学者向けの講演をお願いしています.「行列・固有値の解法とその応用」研究部会からは酒井幹夫先生(東京大学)の『粉体・固気・固液・固気液混相流の数値シミュレーション』,「科学技術計算と数値解析」研究部会からは杉谷宜紀先生(東北大学AIMR)の 『Kerasを使った機械学習入門』,「計算の品質」研究部会からKai T. Ohlhus先生(Tokyo Woman’s Christian University)の”Your own GNU Octave under the Xmas tree – finish your numerical experiments before New Year’s Eve”というご講演でした.講演概要などはこちらの本セミナーHPをご覧いただければと思います.全体の統括は三部会の間にて毎年交代で行っておりまして,今回は「行列・固有値の解法とその応用」研究部会の担当で私の方でとりまとめさせて頂きました.
簡単に当日の講演の様子を振り返りますと,酒井先生のご講演では簡単な数式を交えて粉体・混相流の本格的な数値シミュレーションの動画を多く見せてもらえました.こちらの酒井先生のHPを見に行くと当日のアニメーションの凄さを感じ取れるかもしれません.杉谷先生のご講演では機械学習の基礎的な内容から解説していただき,Kerasを使った実演を交えたもので数学議論を追うだけでなく実際にプログラムを動かす際の臨場感もあり楽しむことができました.Ohlhus先生のご講演ではOctaveによる数値計算の実演に多くの時間を割いていただき,基本的な操作から丁寧にご説明していただけました.実際に環境も提供していただけたため私も手元のノートパソコンで実演の通りの挙動を確認しながら聴講することができました.
こうして振り返りますと,本セミナーは数値計算をメインターゲットとする三部会の連携によって運営されているため数値計算を軸にしたものになりがちですが,その内容と物理シミュレーションや機械学習は基本的な部分で密接に関係していることを今年のセミナーでも改めて強く感じました.そして数値計算を効率よく実装するためにプログラミング技術も重要な要素ですので,今回のセミナーで行われたようなKerasやOctaveの分かりやすい実演は初学者にとって大変有益と思います.今回のセミナーも様々な角度から研究の様相を見渡すことができ,その上で,ある意味でポイントを絞って難しすぎない内容で構成されており,大変魅力的なセミナーとなっていたと思います.前回のセミナーから引き続き,初学者向けの内容を強く意識していきたいという目的は達成できたことと思います.
今回,11回目の開催でしたが,長年にわたり運営を行ってきた私の立場もあり,一つ気がかりなのは,例年に比べると参加人数が少なかったことです.昨年の柏原崇人先生の報告記事を見ると参加者80名と大変多かったようです.今年の日程がクリスマスイブだったから参加者が減ったということなら,今回全体をとりまとめた私の責任であり,来年度以降の日程調整で気を付ければさほど心配する必要もないのですが,この場で少し運営の立場で感想を述べます.研究分野に限らず一般論として,新しく若い人が分野に入ってくるようでなければこの種のセミナーの参加者は減少の一途をたどることになります.そうならないために本セミナーでも初学者向けの内容を強く意識していますが,具体的なやり方は継続的に検討していく必要がありそうです.
最後になりますが,ご講演頂いた先生方にはもちろん,各部会で取りまとめていただいた齊藤宣一先生(東京大学)と尾崎克久先生(芝浦工業大学)および運営にご協力いただけたみなさまに深くお礼申し上げるとともに,来年度以降も継続できることを願って本報告を締めくくりたいと思います.
あいしま けんすけ
法政大学
[Article: G2003D]
(Published Date: 2020/04/24)