宮島 信也
表題の研究会が2020年7月29日(水) - 7月31日(金)に開催された。本会の正式名称は2020年並列/分散/協調処理に関する『福井』サマー・ワークショップ(Summer United Workshops on Parallel, Distributed and Cooperative Processing)である。正式名称にあるように、当初は福井で開催される予定であったが、ご存知のとおり新型コロナウィルス感染症の影響から、Zoomによるオンライン開催に変更された。
本会は次の研究会により開催され、各研究会ごとにオーガナイズドセッションが開かれた。
・電子情報通信学会 コンピュータシステム研究会
・電子情報通信学会 ディペンダブルコンピューティング研究会
・情報処理学会 システム・アーキテクチャ研究会
・情報処理学会 システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会
・情報処理学会 ハイパフォーマンスコンピューティング研究会
・情報処理学会 プログラミング研究会
・日本応用数理学会 「行列・固有値問題の解法とその応用」研究部会
・xSIG The cross-disciplinary Workshop on Computing Systems, Infrastructures, and Programming
筆者は「行列・固有値問題の解法とその応用」研究部会のオーガナイズドセッションに参加した。とは言っても、岩手大学内の業務の都合上、筆者は自身の発表するセッションしか参加できなかった。この点は本稿の執筆依頼者からの了承を得ており、申し訳ないがご了承いただきたい。研究会の開催中であっても学内業務がサクサクと「できてしまう」のがオンライン開催の特徴である(筆者の心掛けが悪いだけかもしれない)。ちなみに、2020年7月28日まで岩手県内には新型コロナ感染者は1人もいなかったが、それでも2020年度前期の岩手大学の授業はオンラインで実施された。
「行列・固有値問題の解法とその応用」研究部会オーガナイズドセッションのZoomミーティングへの参加者は35名程度であった。筆者が講演したセッションは2件の招待講演により構成されており、1件目が筆者による講演、2件目がUT-Heart研究所の鷲尾巧先生のご講演であった。筆者がZoomに不慣れなため、スライドをどのように表示すればいいのかがまず分からなかったが、座長である筑波大学の保國惠一先生に助けられ、何とか発表にこぎ着けた。
筆者は行列の非整数べきに対する精度保証付き数値計算法に関する講演をした。精度保証付き数値計算法とは、数値計算中に混入するすべての誤差を完全に把握することで、解を包含する区間を定量的に求める方法のことである。得られた区間の半径が小さい方が、誤差評価の観点から望ましい。行列の非整数べきは行列主対数関数と行列指数関数を用いて定義される。筆者は行列主対数関数、行列指数関数に対する精度保証付き数値計算法を過去に構築しているので、これらを組み合わせることで、行列の非整数べきに対する精度保証付き数値計算は可能である。一方、このアプローチは必ずしも小さな半径を与えない。本講演では、筆者が昨年に再発見した精度保証付きブロック対角化を利用することで、このアプローチよりも小さな半径を与える方法を提案した。筆者の講演内容は理論色の強いものであり、本会の主旨である「並列/分散/協調処理」とは必ずしも合致しないものではないかと心配していたが、発表後に多くのご質問・コメントをいただき、ありがたかった。
筆者の講演したセッションのもう1人の招待講演者であるUT-Heart研究所の鷲尾巧先生のご講演は興味深いものであった。心臓の収縮のような生体現象を理解するための分子モータの数理モデルを数値的に解く際に、現在では時間刻みをかなり小さくとらなければならない。時間刻みを大きくとるための新たな数理モデルの導出や、そのモデルの数値的な可解性の鍵を握るのが行列・固有値の理論という内容であった。さらに、鷲尾先生はこれまでの時間刻みの40倍の大きさの刻みでも問題無く動作する数値解法をご提案された。この講演内容は基礎理論屋の筆者には目からウロコであった。
最後に、招待講演にお声がけくださった保國惠一先生、本稿を執筆するにあたりご助言をくださった鷲尾巧先生、ならびに多くのご質問・コメントをくださった参加者の皆様に謝意を表して、本稿を終わりにしたい。
みやじま しんや
岩手大学
[Article: G2007A]
(Published Date: 2020/09/07)