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書評

『折紙の数理とその応用』(野島 武敏, 萩原 一郎 編)

小机 わかえ



折紙の数理とその応用(シリーズ応用数理 3)

日本応用数理学会 監修・野島 武敏, 萩原 一郎 編

共立出版, 2012年

 

「見た目に美しい、コンパクトに畳めて便利」という観点から、多数の折紙作家が日本から輩出し、ORIGAMIはそのまま英語となっている。しかしこの二つの特性だけでは産業応用は難しい。これに対し野島武敏氏は、折紙の、軽くて強い、あるいは、展開収縮できる機能を有効利用すれば、産業に結び付くとし、この二つのいずれかの特性を有す多数の折紙を創出しNatureに紹介された。萩原一郎氏は、野島氏とともに2003年に折紙工学を提唱し、同時に日本応用数理学会に折紙工学研究部会を設けた(JSTのサイト http://sciencelinks.jp/content/view/656/260/)。以来、萩原氏は、国内で多くの関連の委員会を主催され、その主な講演者11名が今回の著者となっている。いわば、国内の主な折紙関係の研究は、これに収められているということができる。欧米、中国なども非常にORIGAMIに関心を示し、その成果は、http://www.origami-resource-center.com/origami-science.html などに紹介されている。「折畳可能なソーラーセルシステム(2010)」など、比較的複雑なものも見られるが、大方の研究は、「チタニウムの水素化物を含んだインクを紙につけ、必要な形状に折る研究(2009)」など通常の方法では、折れないものを如何に折るかの議論である。これに対し本書は、我が国の、多様性という特徴を如何なく示している。第1章では、平坦折りや円筒折りから最近の曲線折りなどの数理がまとめられている。第2章では、伝統ある座屈理論などが折紙の数理から考察されている。第3章では、折紙の数学への応用として3次・4次・5次方程式への応用が示され、情報科学への応用として複数の正多面体が折れる展開図などが展開されている。第4章では、可展面でない球面を一枚の紙で包むことは一見困難なようであるが飴玉はこれを実現している。このように、可展面でない曲面であっても、皺や襞の配置を許容することによって、1枚の紙で様々な形を製作することが可能となる。これを立体折りと称し、服飾デザインやランプシェードへの活用例が示されている。第5章では、折紙を、折り線を稜線とする多面体として近似し、すべての変形が折り線における回転に集中して起きていると考える剛体折りについて検討されている。困難ではあるが、折畳める建築空間や容器などへの応用が期待される筒型剛体折紙の検討がなされている。このような工法は型が不用であり安価な多様性のある建築構造物が期待される。第6章では、「バイオミメティクスと折紙」と題し、前半は、自然界には、つぼみから葉や花が展開・成長する様子など様々な折畳・展開構造のあることをイヌシデやブナの葉身モデルで説明し、総消費エネルギー最小から展開形状が説明されている。6章の後半の著者は、”肺の構造をコンピュータで作る(応用数理 Vol.12, No.1, 2002, pp. 2-13)”で2005年度の日本応用数理学会のベストオーサー賞を受賞されたが、今度は肺の構造の折紙を作成・操作することにより肺の3次元空間+挙動(=時間)が理解でき、著者が従前より主張されている定説を覆す呼吸器学の賛同者が急増したことが紹介されている。折紙を折るのは、”百聞は1見に如かず”でなく”百見は1作に如かず”であると造語までされている。すべての臓器は胞胚と呼ばれる一層の細胞のシート状の配列から始まる。つまり、生体は2次元から4次元構造を生成・運営するシステムであり生体現象を4次元の関数で表現することは数理生物学の目標の一つであり折紙は正にこれに応えるものである。従来構成要素の空間配置は解剖学、時間的な変化は生理学と2つの異なる学問分野で個別に扱われていたのを折紙工学の橋渡しの可能性についても指摘されている。折紙の工学的応用は、人工物以外にもバイオミメティクスの有力な手段として医学生物学分野に大きなインパクトを与えるものであると示唆されており興味深い。第7章は、空間充填幾何学で野島氏によって開発されたトラスコアの機能と成形法の開発がなされ、トラスコアは曲面化可能、熱に強い、成形費用が安価などハニカムコアに総合的に優るとされている。

以上、本書は多岐に亘る内容であるが、日本伝統の折紙を学問にという気概が一貫してみて取れる。新しいアイディアを加味する事により、一躍有望な産業に昇華する可能性が感じ取れる。その意味で進取の気概に燃えているエンジニアの方々を始め医療の現場にいる方々に格好の書である。勿論、学生の頭の訓練にもなる好著である。



こづくえ わかえ
神奈川工科大学工学部機械工学科
[Article: J1301A]
(Published Date: 2013/05/20)