JSIAM Online Magazine

学術会合報告

研究集会「IPA Math 2019」開催報告

宮路 智行



2019年12月6日から7日にInteraction between Pure and Applied Mathematics (IPA Math)セミナーシリーズの一環として研究集会「Advancing interaction among mathematical concepts and methods towards practical problems 2019」を開催しました.今回は明治大学中野キャンパスにて,明治大学先端数理科学インスティテュート(MIMS)文部科学省共同利用・共同研究拠点「現象数理学研究拠点」共同研究集会として開催させていただきました.研究代表者である中野直人京都大学特定講師とともに矢崎成俊明治大学教授と筆者が組織委員を務めました.過去のIPA Mathセミナーシリーズとその開催趣旨について2018年度の学術会合報告で紹介させていただきました.そのときに記しましたように,『タイトルの”Interaction between Pure and Applied”は,純粋数学と応用数学を対置するということではなく,応用数学に限らず,数学全体で分野の境を越えた交流を意図しています』.今回は特に,Webページ等で以下のように開催趣旨をご案内しました:

数理科学・気象学の気鋭の研究者5人に関連する研究の講演をしていただく予定です.分野間の相互交流を主な目的とし,数理科学や現象数理の新たな潮流の形成を目指します.様々な分野の方のご参加を歓迎します.

現象数理学を牽引するMIMS・現象数理学研究拠点の発信力を活かして幅広い分野の参加者を募り,さらなる共同研究の機運をつくることを目指しました.本共同研究集会では5名の講演者に一時間ずつ講演していただきました.初日の午後に3件,二日目の午前中に2件の講演でプログラムを編成しました.

最初の講演は神山翼氏(お茶の水女子大学),三浦裕亮氏(東京大学),木戸晶一郎 氏(東京大学)による「黒潮とメキシコ湾流の海面水温同期現象およびその数理科学的側面について」でした.神山氏が講演者を務めました.高解像度衛星データと良質なデータ解析手法で海面水温同期現象を理解し,既知の気候モード(大気や海洋の複数の要素が絡み合う振動解)を従来よりシンプルに説明し,中緯度における異常気象の本質的理解を目的とする研究についてお話いただきました.シンプルモデルからヒントを得て,より現実的なモデルやデータで検証するというモデルの使い方など,現象数理学研究拠点によくフィットした講演内容であり,俣野博先端数理科学インスティテュート(MIMS)所長による積極的な質問・コメントを中心に最高潮からの幕開けとなりました.

二番目の講演は太田慎一氏(大阪大学)による「最適輸送理論の基礎と応用」でした.最適輸送理論の初歩から最近の話題,応用まで離散版と連続版の最適輸送理論を対照しながらわかりやすくご紹介いただきました. 応用として画像解析への応用(二つの画像の間の輸送コストを輸送距離として画像の近さを測る)や熱の伝播(熱方程式の解を輸送距離についてのエントロピーの勾配流と解釈する)などが挙げられました.最適輸送理論における数値解析もさらなる研究が望まれる分野ではないでしょうか.

初日の最後は西口純矢氏(東北大学)に「遅延微分方程式と履歴空間:さらなる力学系的考察に向けて」についてお話いただきました.遅延微分方程式で定義されるsemiflowの初期値に対する連続性を主題として,履歴空間上の連続なsemiflowを得るための関数微分方程式の一般的理論とその適用限界と拡張可能性を考察するという内容です.

二日目最初の講演は林邦好氏(聖路加国際大学)による「Noise-reduction methodologyによる高次元統計量に対する統計的感度分析」でした.高次元小標本データに対する外れ値検出の手法とそのシミュレーションについてお話いただきました.林氏には今回まで4回すべてのIPA Mathにて講演していただいています.2018年度のLASSOと統計的感度分析法によるシミュレーションより優れた結果が得られています.

本研究集会を締めくくったのは齊木吉隆氏(一橋大学)による講演「ヘテロカオス」です.ヘテロカオス(heterogeneous chaos, hetero-chaos)とは,カオス的な不変集合で各点の任意の近傍に異なる不安定次元をもつ異なる周期点が存在するもののことをいいます.力学系の分類として双曲型力学系やhomoclinic tangencyはよく理解されていますが,ヘテロカオスについてはこれまで陽的な公式で表され証明されている具体例がありませんでした.この講演は具体的に力学系を提示し,ヘテロカオス性とエルゴ―ド性を証明するものでした.

会場の明治大学中野キャンパスはJR中央線中野駅から徒歩約8分でアクセスしやすくて便利です.MIMSの共同利用研究集会では6階セミナー室を利用できます.最も大きい6階セミナー室3を講演会場として,隣のセミナー室1と2を控室として予約していました.また,開催中は共同研究集会の参加者はコピー機のある8階談話室も利用できます.インターネット環境については,キャンパス内はeduroamが稼働しており,8階談話室でもMIMSのWiFiを利用できます.今回は講演と質疑でプログラムが押し気味であったこともありずっと講演会場にいたのですが,共同研究の実施方法によっては,このような設備を活用できるでしょう.よく質問されるのでここに記しておきますが,コーヒーを入手するには6階最西端の給湯コーナー付近にある自販機か1階明大マート中野店で缶コーヒーを購入するか,1階明大マート中野店の食堂や中野セントラルパークサウスのコンビニエンスストアで淹れたてのコーヒーを購入するかという選択肢があります.ただし,セミナー室の中では飲食不可とのことです.コロナ禍の最中にあっては従来のような研究集会を開催できませんが,いつか参考になれば幸いです.

最後に,講演者と参加者の皆様ならびに開催を支援してくださった明治大学先端数理科学インスティテュートに心より感謝いたします.



みやじ ともゆき
京都大学
[Article: G1912B]
(Published Date: 2020/06/09)